第17回
リーダーの資質

さまざまな困難に遭遇したとき、人は原理原則に立ち戻ることで正解に近づくことができます。または、先人の言葉を参考にすることで事態を打開できることがあります。そこで私がこれまで先輩に教わり、あるいは体験したり、書籍から学んだことをお伝えさせていただきたいと思います。

リーダーの資質

 リーダーに必要な条件とは何でしょうか。一つ面白い話があります。猿は人間同様、社会生活を営むことが知られていますが、ある動物園では、単に強いだけではなく、交通整理や、仲裁等の調整能力が高い猿が第一位(リーダー格の猿。従来のボス猿)になるそうです。猿山と猿山の間に道路があり、安全に他の猿を他の山へ移動させる能力を持つことが第一位の条件だそうです。その環境に応じてみんなが期待する役割があり、その役割を果たせるものがリーダーになるということでしょうか。この動物園の場合、猿たちがリーダーに期待する役割が調整能力なのだと思います。
 巷にはさまざまなリーダー論がありますが、私が最も共感するのが、松下幸之助さんのリーダー論です。

リーダーとして成功する人の条件
 ①愛嬌がある人
 ②運が強いのではなく、強そうなこと
 ③後ろ姿が素晴らしい人

 ①は分かりやすいですね。他人から好かれる、慕われる人のことです。②は「強そう」の部分がポイントです。「この人に付いていけば、よいことがありそう」と思わせる、あるいはそういう雰囲気や実績を持っているということでしょう。③は非常に難しいと思います。背中で語れるとか、常に何かを考えていて凜々しい姿でいる人のことではないでしょうか。使命感に基づいて行動し、目線が高い。こういう姿勢が背中の素晴らしさに繋がるのだと思います。
 「リーダーとは周りの人を能動的にする人」という言葉があります。また、英語のリーダー(Leader)の定義は、「物事を自分でするのではなく、他人にやってもらう人のこと」です。つまりリーダーにとって大事なのは、自ら先頭に立って突撃することではなく、周囲の人間をいかにやる気にさせるか、なのです。
そして同時に、リーダーはよきFollower(後継者候補)を持っていなければなりません。Followerとは、リーダーに代わって四方八方に目を配り、あれこれケアできる人のことです。いざリーダーに頼まれた際に、確実に依頼を遂行し、さっと引き下がれる。元京都大学名誉教授の梅棹忠夫氏の言葉を借りれば、「請われれば一差し舞える人物」です。
 Followerには常に経験をさせねばなりません。長年さまざまな部所を経験させ、失敗や成功を体験させます。場合によっては、そのプロセスの中でFollowerをサポートするのもリーダーの役割なのです。
 Follower育成の観点からも、一人ひとりとじっくり、ていねいに話をすることはリーダーにとって非常に大事です。部下がどう考えているか、何をやりたいと思っているかを理解して、それが実行できるような環境づくりをしてあげる。それがリーダーの役割だと思います。昨年まで、私は日本卓球協会の会長を務めていましたが、人の話をじっくりと聞くように心掛けていました。選手の強化育成の問題や卓球の競技人口をいかにして増やすか、あるいは、視聴者に分かりやすくテレビ放送するにはどうすればいいのか、など、たくさんある要望をまず聞きました。これが大事なのです。リーダーで一番大切なのは、慈しみの心を持つこと。老子曰く「それ慈なり、ゆえによく勇なり」とあります。こちらから一方的にいうだけでは、部下は決してついてきません。部下の話をよく聞き、理解した上で、ついてこさせる。それが本当のリーダーなのです。

公益社団法人 日本マーケティング協会
会長 藤重貞慶