『ウェルビーイングで変わる!
食と健康のマーケティング』

『ウェルビーイングで変わる!
食と健康のマーケティング』
藤田 康人 著 日本経済新聞出版

 人間の根源的な欲求である「健康維持」に応える食品として、機能性表示食品などの健康食品が世にあふれて久しいが、商品数が増える一方で世の中全体に広く普及する大型の定番商品はほとんど生まれていない。筆者は、長年食に関するビジネスに関わり続け、日本に「キシリトール」を普及させた経験を元に、健康機能をうたう機能訴求型食品の限界を指摘し、食品が人々の幸福によりいっそう寄与するには、ウェルビーイング視点を組み込むべきだと提案する。
 ウェルビーイングとは、身体や心が健康であるという「状態」ではなく、人々が心身の健康を前提として社会的にも満たされ自分らしく生きていく「生き方」のこと。こう捉えると、食品業界が長らく対峙してきた、医薬品とは異なり効果が緩和な食品による健康効果実感の限界や、「美味しいこと」と「身体によいこと」が両立しにくいというトレードオフの関係性に、新しい見え方が生じてくる。具体的には、食と健康の関係性を健康機能側面で身体によい成分をオンして悪い成分をオフするという単純視点で捉えるのではなく、たとえ健康機能面では満点でなくても、美味しさで満たされたり家族や仲間と楽しんだりするなど他者との良好な関係構築につながる食品はウェルビーイングに貢献できる、という考え方ができるようになる。また、特定の症状や部分的な身体の不具合を治した先にある人々のニーズは「健康を維持して人生を謳歌する」ことであり、機能の先にある価値の伝え方や全身の健康につながる生命科学的なアプローチが求められる、と筆者は提唱する。そして、具体的な価値伝達の方法論を事例とともにわかりやすく紹介するともに、最新の生命科学研究に基づくさまざまな健康関連技術を詳しく紹介している。
 本書は、食に関わるすべての方にウェルビーイングという切り口で、「食と健康」を生活者視点と生命科学視点で俯瞰して捉える広い視野を与え、食品ビジネスの可能性を広げるヒントを提供してくれる。

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カバヤ食品株式会社 マーケティング本部 宮川 孝一