INTERVIEW


キャリアとライフを両立できる社会を
実現したい想いで、起業


世界唯一の企業専用のAI恋愛アプリで拓く新地平

豊嶋 千奈
株式会社Aill 代表取締役

 大手製薬会社のTOP営業のノウハウを活かし、産学連携で人と人のコミュニケーションをアシストができる AI・人工知能を開発。ビジネスモデル特許を2つ出願し、世界初となる企業専用のAI恋愛アプリで起業。その開発の背景やねらい、アプリの特長のほか、事業への想いや今後の展望についてお話を伺いました。

キャリアとライフを両立できる社会を実現するため
企業と従業員の間にある課題解決に着目

───豊嶋さんは現在、Aill社で企業専用の恋愛マッチングアプリ「Aill goen(エール ゴエン)」を立ち上げられた女性起業家として非常に注目されているわけですが、それまでは大きな製薬会社で働いていらっしゃいました。そこからどのような経緯、気持ちでAill社を立ち上げられたのですか。

豊嶋 私は、大学卒業後に、大手の製薬会社に入社しました。そこでは、薬剤の営業や企画立案、地域戦略・マーケティングなどを担当していまして、大変有難いことに営業職では実績伸長率全国1位を3度いただくことができました。
 ただ、毎日仕事で忙しく、ライフとキャリアを両立できるような社会の実現をかなえることができないかなと考え、Aill社を立ち上げました。
 2018年にAill事業を始め、2019年には「B Dash Camp」「IVS Launch Pad」「TechCrunch Tokyo」といったベンチャーピッチ大会で入賞いたしました。翌年の2020年には、女性日本起業家代表に選出。2021年にはHRアワード最優秀賞をいただき、さらに2024年には、経済産業省から「従業員のウェルビーイング向上施策」「独身者向け支援」として評価されました。とても慌ただしい期間でしたが、幸いにも世の中の方々から応援していただいたおかげで現在に至っています。
 一般的に男女雇用機会均等法以降、女性も社会進出ができるようになり、2000年前後には女性と男性の評価軸が一緒になりました。男性に比して会社のためにも頑張るぞという一部の女性にとってはありがたい環境整備がされた時期を第1フェイズとすると、今は第2フェイズが来ていると思っているんです。一部の女性たちではなく、マジョリティで女性活躍となると、きっとキャリアとライフの両立を図れるインフラを作らないとだめだと思ったのです。
 最終的には、もっとキャリアとライフが両立できる社会づくりができないのかということですが、そうするためには、まずは企業の理解と体制づくりが不可欠だと気付いたんです。
 もう一つの気付きは、女性だけではなく、男女双方が共働き、共に育て合う理解が大事であることです。キャリアとライフの両立を多くの従業員が実現するには、男女双方の理解と彼らが働く企業へアプローチが不可欠だと思ったのです。

───素晴らしい着眼点ですね。実際のビジネスとしては順調でしたか。

豊嶋 これはいけるぞと思ってやりだしたのですが、コロナ禍前ということもあったのか、恋愛サービスを売りにいっても、もうまったくの門前払いでした。そもそもビジネスモデルつくりから課題に直面しました。最初、ビジネス構想としては、働く人同士が出会えさえすればいいと思って、自身の知り合い同士をSNSで繋いでみたのですが、全然うまくいかなかったですね。
 そこからいろんな男女にヒアリングしてみると、出会うだけでは足りないなと気付いたのです。今の人たちは「傷つきたくない・失敗したくない」といった思いもあり、予想以上に男女の思いやニーズのすれ違い、誤解が大きかったんですよ。誰かが間に入って双方をつなぐ人がいれば誤解は解けることが多くあることに気づき、AIの開発に乗り出しました。
 しかし、企業にAill goenを紹介しにいくと、最初は猛反発を受けましたが、3~4年続けていると、企業からもどんどん問い合わせもいただけるようになりました。初めは現場の人たち、独身者たちに賛同いただいていましたが、今は経営層からの賛同が急激に広がっています。やはり、企業課題と社会課題とを同時に解決できるということで、経営層にすごく刺さりだしたんですね。

───企業がAillを導入するメリットは何でしょうか。

豊嶋 独身者への支援、人的資本やウェルビーイングとしての女性向け支援として入るケースが多いですね。
 国にも企業にも独身者には何も支援がない状態です。既婚者以降ではものすごく手厚い。不妊治療も子どもの授業料も全部無償です。介護保険もすごく手厚い。独身者には何も無い。今、男性の平均結婚年齢は34歳ですが、入社して10年以上の大切な期間、人的資本経営やウェルビーイングなどの施策もないです。
 あとは、人材採用の際にも役立っているようです。今の学生たちはワークライフバランスをとても重視していますから、説明会の質問で、結婚率や育休取得率、復帰率などを聞かれるようです。ただ、実際にはどれだけ数値が悪くても、「でも、こんなサービス導入しているから大丈夫だよ」と説明すると、ネガティブ要素が全部吹っ飛ぶと導入企業様からお伺いしています。企業側も、ちゃんと会社として努力してますとなりますし、学生からしてもライフイベントの方が自分事ですから、どちらからも非常に好評のようです。

縁結びの行動のために必要な情報をAIがアシストしてくれる
AIは「学生時代の共通の友だち」役

───今は、他にもいろいろ恋愛マッチングアプリがあるわけですが、「Aill goen」のサービスが他とは違う点とは何ですか。

豊嶋 一番大きな違いは、企業専用であることです。恋愛マッチングアプリは普通、BtoCなのですが、AillはBtoBtoCあるいはBtoBtoE(Employee)です。これはAillだけです。
 企業にとって一番重要なことは「安心・安全」なんです。BtoCサービスは不特定多数が登録されています。いくら独身と申告していても、免許証でしか証明できない。既婚者もホストもたくさん混じっているわけです。企業としては安心・安全が担保できないのです。
 それに、婚活サービスは結婚をゴールとしているため、実は企業からしたら致命傷なのです。いろいろな選択肢が許容されるダイバーシティの中で、「結婚=ゴール=正解」というメッセージは出せないですよね。
 その点、AillはAIが仲立ちするだけではなく、一緒にパトロールもできますので、安心・安全がすごく担保できます。今も重度の違反行為や成りすましはゼロです。ですので、市場としてはAillだけじゃないでしょうか。他社がやろうと思っても一から全部つくらなくてはならないですし。

───AIがどのような支援をしてくれるのかというところを詳しく教えていただけますか。

豊嶋 「Aill goen」では、結婚をゴールとはしていませんので、最初に目的を選べます。パートナーシップなのか、いい人がいれば結婚したいのか、即結婚したいのかを選択し、他社さんのお相手を紹介します。同じ会社の人は紹介しません。
 お互いがいいなと思ってマッチングすると、チャット上にAIキャラクターが出てきます。例えば、マッチングアプリを使う女性からすると相手が誰か分からないし、犯罪性もあるかもとすごく警戒しています。そこで男性がいきなりデートに誘っても十中八九振られますよね。AIは、「振られるぞっ!」というときは男性に「デートにまだ誘わない方が良い」とアシストします。もちろん、デートに行けるタイミングになったら、AIが合図も送ります。会話の流れや相手との心の距離が縮まるコミュニケーションのやり方もアシストしたりできます。相手が自分をどう思っているかということをAIが感知して見える化もします。事前に進展可能性を予測して、効率よくアプローチができるという仕組みです。しかも、AIはデートの前後だけでなく、知り合ってから卒業の付き合いまで、二人の関係が進展する、ここぞというタイミングで出てくるんです。一問一答のチャットボットには出てこないので、煩わしくない点も安心できます。
 要するに、AIのやっていることはキューピッド役です。相手のことを知る、仲立ちする、言いづらいことを代わりに伝える。これ、どこかで聞いたセリフだと思いませんか。実は、このAIは、「学生時代の共通の友だち」をモチーフにして開発しました。中学や高校時代を思い返してほしいのですが、気になる子にアプローチするとき、その子の友だちに仲を取り持ってもらうなんてことありましたよね。実は、バーチャル環境には知り合い、共通の友達という存在がいないのです。かつ、傷つきたくないという意識も強いので、行動するために必要な情報が圧倒的に足りないわけです。これをまるごとAIが代用しましょうというわけです。
 例えば、デートに誘おうといったとき、AIはチャットを読み取って、まず女性側に裏取りに入ります。「そろそろ相手に会ってもいいと思うんだけど、実際どう?」と。ここでイエスなら男性に「誘え!」と言いますし、ノーだったら「ごめん、早とちりでした」と、一歩前の段階に切り替えようとなるわけです。デートが終わったら、男女のお互いに「今日、どうだった?」と聞く。反応が良かったら、男性に「よし、もう一回だ」と言う。
 このようなやりとりの効果で、現在、男性の成功率は98.5パーセント超です。男女双方から情報ゲットして進めているわけですから当然の結果ですよね。出会ってからお付き合いまでナビゲートできるアプリは、いまだに世界で唯一なのです。

営業と恋愛は紙一重

───大手製薬メーカー営業トップ経験で、一番Aill起業に役立っていることは何ですか? 

豊嶋 実は、以前の製薬会社に居たわけですが、文系出身でいきなり医療業界に入って、臨床の実際等全然分からない。先生が何を言っているか、ちんぷんかんぷんです。なので、こっそりと面談内容を全部ボイスレコーダーで録画して、夜、全部ノートに書くことにしたんです。つまり医者の認知からロイヤルカスタマーまでのPDCAサイクルを、全部体系立てて整理していました。
 そして昔の人は「恋愛と営業は紙一重」と言っていたことを思い出し、この営業経験を恋愛に転用してみようかと考えました。相手を知ってからゴールするまでに乗り越える課題は何か、その課題を乗り越えるにはどんな情報をどこから入手すればいいのか、などを全部体系化して、ストーリー仮説を立てたんです。

───その考え方は恋愛以外でも生かせそうですね。営業でも、上司と部下の関係づくりでも使えそうですね。

ライフステージをフルサポートする
ウェルビーング・プラットフォームを目指す

───この3年、5年でどういう会社に成長させていく予定ですか。Aillとしての今後の展望をお聞かせください。

豊嶋 もちろん、ビジネスとしては企業からどんどん出資していただいて成長していきたいと思っています。共働き、共育てに賛同する企業のうちで3年後にはシェア5割を取っていきたい。独身者の幸せを企業の幸せ、結果的に日本の課題解決につなげていく。その後は、働く人たちのライフステージをフルサポートしていくことにチャレンジしていきたいと思っています。言い換えますと、従業員さんのパーソナルアプリといったところを目指していきたいんです。
 それは、弊社だけでは難しいので、いろいろな企業と共有的なプラットフォーム、いわばウェルビーイング・プラットフォームをつくっていきたいです。そのときに、先ほどおっしゃっていただいた上司と部下の関係構築にプラスAIを転用することも見据えています。AIが上司と部下の間に入りフォローしながら、みんなでライフステージをフルサポートできる。こういった支援ツールがあれば、従業員さんの幸せ、企業や日本社会の課題解決へのベクトルを合わせられるのではないかと考えています。

───貴重なお話をありがとうございました。

(Interviewer:德田 治子 本誌編集委員)

豊嶋 千奈 (とよしま ちな)氏
株式会社Aill 代表取締役

2009年に同志社大学法学部卒、武田薬品工業に入社。薬剤の営業、企画立案、地域戦略・マーケティングを担当。営業では3年実績進捗率全国1位となり、女性幹部候補生に選出。2017年に経営学修士(MBA)を取得。
2018年にAill事業開始。2019年に「B Dash Camp」「IVSLaunch Pad」「TechCrunch Tokyo」などの主要なベンチャーピッチ大会で入賞、2020年に女性日本起業家代表に選出、2021年HRアワード最優秀賞を受賞。武田薬品TOP営業のノウハウを活かし、産学連携で人と人のコミュニケーションをアシストができる AI・人工知能を開発。

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