第2回
スキーマと新しさ

Something New

 わたしたちの周りには、常に新しい何かが生まれています。それは新商品であったり、新しい音楽であったり、見たこともないような流行が起きたりと、次から次へと新しい波が押し寄せてきます。マーケティングに携わっている方たちは、新規の商品開発、魅力的な新企画、改革のためのアイデア出しなど、「何か新しいモノやコト」を求められるシーンがあることでしょう。
 本連載では、「新しい考え方、新しい見方」とは何かを念頭に置きながら、それらを生みだすフレームワークのヒントとなるものを、さまざまなジャンルから提示し考えてみたいと思います。

スキーマと新しさ

 ネコと聞いた時に皆さんは、どのようなイメージが湧きますか?例えば子供にネコの顔を描いてもらうと、A図のようなイラストが多いかと思います。そうです、耳がピンと立ってヒゲが横に伸びているイメージですね。では、次のB図はどうでしょうか?今度は耳が折れて垂れ耳になっています。ヒゲは同じです。うーん、このイラストからは犬のようにも見えるけれど、ヒゲがピンと横に伸びているところに合点がいきませんよね。

 実はネコ好きな方ならご存知のれっきとしたネコの仲間です。ここ数十年の間にブームとなったスコティッシュ・フォールドという比較的新しい猫種です。従来のネコには見られない耳折れ・垂れ耳というユニークな特徴によって、顔全体が丸くて可愛い印象を与えてくれます。今までになかった新鮮なイメージにより大ブレークして今でも人気です。  
 ここで考えてみたい重要なポイントが2つあります。1つは、ネコと聞いて頭に浮かぶイメージです。おそらく誰でも簡単なイラストを描いてもらうと、輪郭はA図のようになるのではないでしょうか。このように決まり切った紋切型のイメージは、スキーマと呼ばれるものです。これは特定の現象や事象に対して、私たちが持つ既存の知識体系を指すもので、自らの経験や知識に構造を与え、与えられた情報を組織化しようとするものです。その中でも、今回のように一旦広く受け入れられて形成し定着したものは、ステレオタイプ(定型化)と呼ばれます。
 もう1つは、この基本スキーマやステレオタイプと異なることにより、今までにない新たなイメージが生まれ新鮮な印象になるということです。ただしこの場合に注意しなくてはならないのは、あくまでも“ネコ”というジャンルの中でのスキーマです。典型的なネコのスキーマに対して、“鳥”のスキーマをあてはめても異質なものと認知されるだけで新しさは生まれません。あくまでも同じカテゴリーでの基本スキーマと比較して、そのどこかが異なるということになります。
 つまり、「(同じジャンルの中で)新しいイメージ≒従来のスキーマやステレオタイプと一部異なるもの」という図式になります。この「同じジャンル」、「一部異なる」という点がポイントでいわば重なるスキーマを少しずらす、“スキーマのずらし”が新しいイメージを作り出すのです。

ありふれたスキーマの変化形

 わたしたちの周りの自然界では、時々見たこともないような珍しいものに出くわすことがあります。以下の写真は、森の中で見かけた不思議なモノです。

 木の枝から、つり下がる何か丸いモノのようです。単純に葉なのかなと思ってよく見ると、これ以外は通常の葉が生い茂るごく普通の木です。ここだけ葉の形が違うというのも妙ですし、葉ではなく何か実がぶら下がっているのかなとも思えます。ちょうどこれが付いている枝が、何か重いモノがぶら下がっているように垂れています。これを見た他の人は、動物の巣ではないかとか、何かが飛んで来てたまたま付いたのではないか、などといろいろな見方が出てきます。
 さて皆さんは、なんだと思いますか?答えは、風が吹いた時にその正体がわかりました。つまり風が吹くとなびいて、とても薄いということがわかります。やはりこれはこの木の葉であることが判明したわけです。大変珍しいもので、新鮮な葉のイメージとなります。

重層的なスキーマ

 ここでの認知とスキーマについて考えてみると、通常の木に付いている葉のスキーマとあまりに異なっていたことと、何か重いモノがぶら下がっているような枝ぶりだったために、木から生い茂る葉とはすぐに認知されなかったわけです。しかしながら風になびくという「動き」が生じて初めて重さや薄さを実感でき、葉のスキーマと結びつきました。スキーマは、このように葉というスキーマでも、単にその形ばかりでなく動きも構造的に繋がってイメージ化されています。いわば静止画だけではなく、動画もリンクして結合しているということです。
 スキーマはこのように、特定のイメージについてさまざまな情報が重層的に結合しています。そしてその基準となるスキーマのアイデンティティは保ちながらも、一部異なる「スキーマのずらし」により、“新しさ”を感じることに注目したいところです。

中島 純一
公益社団法人日本マーケティング協会 客員研究員