特集


創造性が求められる時代には
「感じる」教育を

by 吉田 就彦

 ポニーキャニオンで「チェッカーズ」や「おニャン子クラブ」、「中島みゆき」などのヒットを手がけ、国民的な大ヒットとなった「だんご3兄弟」を最後に退社後、取締役副社長としてデジタルガレージのJASDAQ市場でのIPOに貢献し、2007年にヒットコンテンツ研究所を設立、2022年まで本誌編集委員を務めた吉田就彦氏に、AI時代における企業のクリエイティビティの必須性を感動業からの示唆と持論でうかがいました。

①ヒットと
コンテンツ産業

ヒットを生み出すのは誰か?

吉田 以前、デジタルハリウッド大学で、今回のテーマと同じ感動について講演しました。同大学ではデジタルコミュニケーションやクリエイティブ、そしてアニメや映像、ゲームなどについて教えており、そのような志のある学生が集まっています。
 その学生たちに私は、「君たちが第一線で活躍するような時代にヒット作を出すのは、残念ながら君たちではなく、今戦争をしている国の人々だ」といいました。当時はアフガニスタンで戦争がありましたが、そのような国で成長していく若者たちが描く夢や愛、希望、人に対する思いや人間物語に、君たちは勝てないだろうと。
 では、どうすればいいのか。「君たちの得意なことで、そのような人たちをサポートして形にし、マーケティングをするプロデューサーにはなれる」と言いました。

私は学生時代にインディーズバンドのマネージャーをしていました。音楽をやる人たちは、ライブハウスとの折衝のようなマネジメントが苦手です。その意味では、今の日本の若い世代も、アフガニスタンやウクライナのすごいクリエイターが出てきたときに、その人たちをサポートする機会があるでしょう。ですが、普通の人が、そのようなアーティストのマネジメントをするのは容易なことではありません。

吉田 自著『ヒット学』にも書いていますが、ヒットを生み出すプロデューサーの全部で7つある能力の2つ目は理解力です(「補説」参照)。アフガニスタンのクリエイターを理解できない人はマネジメントもその作品から富を生み出すこともできません。

その辺りを理解できるかは大きな違いですが、できる人は少ないです。

吉田 本当にそのヒットの可能性を理解するには、ロジックだけでなく、人の心の深みに触れる感性が必要です。ですから、その感性を育む「感じる教育」が重要です。これからはロジックの部分は、AIがあらゆる理論を読み込んで、これが良さそうだと示してくれます。それではマーケティングが皆同じになってしまい、同じ刺激の連呼により、人は飽きるという問題が起きてヒットは生まれません。また、企業側も他と同じでは競争力を失うことになります。

OpenAIはJukeboxという、過去の音楽を分析して音楽を生成するAIを開発中です。

吉田 私の予想では、AIは感性すらも計算して、早晩それを包含したアウトプットを生成するようになり得ると思います。そうなれば、表現も皆同様になってきます。

細野晴臣さんなど一部の著名な音楽家は絶えず様々な曲を探して勉強していますが、昔の曲には良いものがあるのに、最近のものは対象にならないといっています。AIは登場していませんが、曲の作り方やプロダクトに仕上げるときの手の入れ方によって、似たようなものになっているのかもしれません。

吉田 音楽の中にマーケティングの要素が入り過ぎたため、そうなっているのではと感じていますが、それは仕方のないことです。しかし、そのような作品に本当に面白いものはなかなかない、と細野さんたちがアーティストの感性から指摘しているのでしょう。

クリエイティブを切り離してきたコンテンツ産業

吉田 レコード会社の制作は大きく二つの仕事に分けられます。一つは、いわゆるディレクターやプロデューサーといわれる人たち。彼らはスタジオに入ったり、曲を決めたり、詩を作ったりします。それらを作曲家や作詞家に依頼もします。そうして、音源・原盤を作る、クリエイティブな仕事です。もう一つはA&R(アーティスト・アンド・レパートリー)という、1930年代頃、アメリカでレコード産業ができた頃に生まれた言葉です。A&Rは、どの歌手にどの曲を歌わせるか、どう売るかを考えます。レコード会社では花形の仕事です。
 では、どうすればいいのか。「君たちの得意なことで、そのような人たちをサポートして形にし、マーケティングをするプロデューサーにはなれる」と言いました。

今は分業になっているのですか。

吉田 そうです。昔は、レコード会社が歌手、作曲家、作詞家などを抱えており、その中にA&R的な機能とプロデューサー的な機能が両方あったのです。
 それから、日本でニューミュージックが生まれます。フォークのような革命的な音楽が出てきました。従来の歌謡曲とは異なる、カウンターカルチャーのような、ロックに代表されるようなものが若者の中から出てきました。その結果、レコード会社がプロデューサーをやるのではなく、音楽家に好きなことをしてもらったほうがいい、という感じになってきました。
 当時、私はキャニオンレコードにいましたが、プロダクションがプロデューサー的に音源を作り始めた時期です。代表的なのが、ポピュラーソングコンテストが有名なヤマハ音楽振興会です。そしてアーティストである吉田拓郎さんや井上陽水さんがレコード会社(フォーライフレコード)を作りました。こうしたプロダクションやアーティストが音源を作り、(大手)レコード会社はそれを宣伝し、流通させて、儲けを分かち合い、原盤の印税を払います。そのような形に産業構造が変わりました。
 するとレコード会社では、作るというプロデューサー的な仕事が少なくなります。一方で、A&R的な、宣伝費をいかに持ってきてマーケティングするかという人たちが尊ばれるようになり、出世するようになります。
 ちょうど私が制作を始め、ディレクターという肩書で仕事をしていた頃が、まさに、プロデューサーとA&Rの両方ができた時代です。私たちの数年後、10年後になると、A&Rこそがレコード会社となっていきました。

中身が違いますが、技術系の大企業が、社内だけでイノベーティブなものを作るのは無理だから社外の研究開発と捉えてスタートアップに投資や買収するように変化したことに似ています。

吉田 似ています。レコード会社は規模のビジネスでもあるからです。毎月、きちんと作品がリリースされ、売っていく必要があります。しかしアーティストによっては、不定期だったり、何年かに1回しか出せないこともあります。これではレコード会社はつぶれます。ですから、とにかく作ってもらえる人たちを集めることになります。作品を預かって宣伝と配給を行う配給会社になった今の映画会社のような形に、レコード会社も変化しました。企業側にとってクリエイティブな仕事は手間がかかり大変なので、ディストリビューションに軸足を置いて産業を組み立ててきました。

コンテンツの力

革新は誰が起こすのでしょう。

吉田 スティーブ・ジョブズがピクサーで3DCGのクリエイティブに入っていき、感動的で、面白く、ユーザーフレンドリーな作品を提供して大成功を収めました。クリエイティブ産業では、新しい革命は必ずクリエイティブから起こり、ディストリビューションからは起こりません。ミュージシャン、アーティスト、音楽プロデューサー、映画監督や映画プロデューサーのような人たちが、伝えるべきテーマを持ち、力強い発信を行わない限り、新しい波を起こすのは難しく、それらはすべてメインストリーム外から起こります。

最近のコンテンツの力は弱まっているのでしょうか。

吉田 サウンド面は、世界中が同じようなトレンドや同じような感覚の中で音楽を作るようになっています。日本人は器用なので、それをうまく行うことができます。問題は、人が感動するのは何かということです。メロディだけでは感動しなくても、そこに言葉が載って歌になり、気持ちや感情がそこに込められ、面白いとか、かわいいと感じたりするのです。
 最近の楽曲は半径50センチの歌ばかりです。人との関わりが薄く、攻撃されないようにと育っているので、恋愛に踏み込んで大変なことになることも避け、もしかするとそうかもしれないけど、でも違うかもしれない、といった歌ばかり。もちろん、時代性は感じますが、そんな詩や人との関係性を歌った、最近の楽曲には物足りなさを感じています。

かつては心の支えになった、人生を変えたといった曲があったと思いますが。

吉田 かつて、尾崎豊を死ぬほど愛しているという人たちがいました。今は、そういう例はあまりないでしょう。私は、音楽の力、社会に与える影響やインパクトが、昔に比べると相対的に落ちていると思います。

ベルリンの壁崩壊につながったニナ・ハーゲンの曲(「カラーフィルムを忘れたのね」)のように、さまざまな局面で象徴的な曲がありますが、今はそのようなものが見当たりません。

吉田 言葉の物足りなさは日本だけでなく、海外でも同様で、時代を揺さぶる歌が少なくなっています。

②どこに問題が
あるのか?

創造貧乏な教育

吉田 先日、意欲のある校長先生で、先生たちも一生懸命な小学校の授業を見学する機会がありました。ところが、授業の内容を見て腰が抜けました。図工の授業だったのですが、真っ白の紙にフリーハンドで自分のテーマを形にしてみよう、ではなく、先生が上手に見える絵を描く方法を教えます。野菜はこのように描いたほうが野菜のように見えるというように、先生が決めた枠の中でうまく収めるためのやり方を教え、それを子どもたちが作業として取り組んでいました。

技能のトレーニングですか。

吉田 まさに技能トレーニングです。小学校の先生は過酷な仕事をしている中で、一生懸命工夫して準備してくれています。しかし、先生がやる気を出すほど、子どもたちのクリエイティビティは発揮されなくなります。無から何かを生み出すのではなく、一般的に良いとされることのやり方をなぞるだけで、その枠を外したりすると思考停止になる可能性があります。この実態が小学校から大学まで続いているのではないでしょうか。

このままでは創造貧乏ばかりになってしまいます。企業における教育もそうなっているかもしれません。

吉田 日本は正解を求める教育になっています。子どもたちは、知識を得る、整理をするといった、角を削って形を整えるという教育を受けています。しかし、クリエイティビティを育成すること、本荘さんの得意なイノベーションを起こすことに向かっては、現在の教育が全く機能していません。最近はそのことを強く感じます。
 日本の教育は、軍隊を強くするために作ってきた明治期から根本的に変わっていないでしょう。上意下達で動く、異議を唱えず実行する、部下として使いやすいなどの体育会系が尊ばれます。そのため女性の登用は遅れ、女性の柔らかいコミュニケーションが有効化されません。感性的には女性のほうが優れているのに、それを活かすことができないため、商品開発においてもマーケティング・コミュニケーションにおいても凡庸なものになります。
 少し前までは成功しているフィンランドに学び、考える教育が重要だと言われてきましたが、今AIの時代に突入して、その先に必要なのは感じる教育です。その方向に今の日本はまったく進んでいません。考える教育すら行われていないのが現状です。

最適化のワナ

吉田 皆が最適化のワナにはまっています。優秀な人であるほどピカピカに磨かれ、最適化されます。しかしユーザーは、最適化されたものを見せられたり、商品として買わされても、特に魅力がないので感動のしようがありません。だから飽きるのも早くなります。それで、商品サイクルが短くなります。

それは様々な分野で起こっていますね。

吉田 目先を変えて、ブランドのキープをしようと努める話をよく聞きます。例えばクルマの開発者によると、今や次々にマイナーチェンジやリニューアルをしなければ売れなくなるそうです。それは、皆が最適化して、どれも同じようなものになっているからです。

AIこそ、最適化では人を超えますが。AIの時代に人間は何をするのでしょう。

吉田 AIでできることで競争しても、AIには勝てません。AIが生み出すものから選択するのが人間の役割です。また、AIから導き出されない、面白さを感じることを創造するのが人間です。そこにしか人の仕事はないでしょう。
 にもかかわらず、AIで代行できるようなことばかりを覚え、小学校から詰め込まれますが、中国ほど詰め込むことに徹底しているわけでもなく、今の日本は中途半端です。そんな日本人の子どもたちが第一線に立つとき、AIを駆使して、クリエイティビティを活かしてビジネスをする人たちが現在の教育先進国から出てきます。そんな人々に日本の子どもたちは勝てるでしょうか? これが私の問題意識です。

理屈の通った稟議書なら、AIのほうが上手に書けるかもしれません。ならば、何をするのか。

吉田 AIのアウトプットばかりでは、人は飽きてしまいます。飽きるということをどう捉えるかが、ヒットの極意でもあります。飽きるなら、こんな変化球を投げてみよう、といった発想がビジネスでも必要になります。AIの最適化を超えた付加価値があってこそ、ビジネスになります。AIをどのように使うのか、どうすれば人は感動するのかを学ぶ必要があります。これからは、全てにおいてクリエイティブが鍵になります。

角がとれたパチンコ玉

吉田 経営トップになるほどクリエイティブが重要だ、そうしなければ我が社はこれから大変だと言います。それにもかかわらず、なぜそうならないのでしょうか。

そのトップが属する組織が、クリエイティブな人、感じる力がある人を育てているか、評価しているかというと、そうでもありません。

吉田 近年多くの日本企業が360度評価を導入しましたが、これが最悪で、組織の活力を削いでいます。上から、下から、横から、斜めから、さらにステークホルダーからも評価されれば、角が削られて丸くなり、パチンコ玉のようになってしまいます。

マーケティングで、エクストリーム・ユーザーを見ろ、外れ点を見ろといった話をすると、大企業の方々は、自分たちもそうしているなどといいます。しかし、よく話を聞くと、実は全くできていないことが多い。これはどういうことでしょう。

吉田 よく磨かれたパチンコ玉群の中から見ることができる外の世界は限られているので、近視眼的なものにとどまるからではないでしょうか。

バッタの触覚を半分切ったような状態なので、理屈として理解できても、イメージしたり、感じたりする部分が抜け落ちているのでしょう。

吉田 マーケティングなどを真面目にやっている優れた企業ほど、丸くて角のない社員が育ちます。強い力で玉が磨かれてピカピカになるほど、日本企業の競争力の低下につながります。

本当はいろいろな形の人材がいて、組織としては良い組み合わせという姿が良いのですが、360度評価を導入していない会社でも、結局は同じになっています。

③クリエイティブになる方法

ヒットを作る基本

吉田さんはヒットのワークショップやセミナーで教えていらっしゃいますが、「だんご3兄弟」に限らず、たくさんのリスナーを引き付けるヒットを作るための視点をお教えください。

吉田 ヒットは、便利か、楽しいかのどちらかです。「楽しい」は感情が動くという意味で、悲しいでも構いません。「便利」は利便性があることで、経済合理性のようなことも含まれます(「補説」参照)。
 ところが、近年「便利」で差別化するのが非常に難しくなっています。したがって、これからの時代にヒットを作る根本は「楽しい」の方によりシフトします。ですから、人間について究めていく方向に進まざるを得ません。「楽しい」はすべて人間が感じることだからです。これが、これからヒットを作るために最も重要なことです。

楽しさが続く、ファンになるものが大切ですが、減っている気もします。

吉田 人間の感情の動きで、堪能する、飽きるという部分が、とても速くなっています。刺激の強いものが増えて、飽きやすくなり、商品のサイクルが短くなっているのです。

いきなりサビから歌を聞かせるタイパ偏重もそうですね。

吉田 企業も説明責任の名のもとに、効率や合理性のようなものに引っ張られがちです。最適化しているようですが、魅力も削ってしまいます。これを戒めなければ、画期的なものは生まれません。

失敗を受け入れ、丸くない人を活かせ

クリエイティブやイノベーションは百発百中とはいかず、失敗もあります。大抵の日本の会社は、口ではやってますと言っても、無難なところだけの実践になりがちです。そうでなく、バランスがおかしくてもエッジが効いた人、妙に面白い人、変な人こそが必要ではありませんか。

吉田 元電通の人がいっていたことですが、電通は面接でトンガっている人を採るが、入社後の1年で角を思い切り削るとか。角を削られてもまだ、残ったイガイガを何とかしようとする人だけが生き残るそうです。
 今の中国はそれと似た状況でしょう。優秀な大学の超エリートたちがいますが、数が多いので切磋琢磨します。その中から突き抜けようとするので、すごい競争力を持っています。パチンコ玉になる圧を受けても、イガイガを維持するために素早く実践します。つまり個性、スピードなどが中国の活力になっています。丸くきれいに時間をかけて磨いているだけでは太刀打ちできません。

生命エネルギーのあるイガイガした人を活かせ、ですね。

吉田 イノベーティブなことを起こし、成功すれば富を得ることができます。失敗しても、どんどんチャレンジする。私の人生を振り返ると、若い頃に失敗をたくさんさせてもらった経験が大きい。そのような環境にあったので冒険できるようになり、失敗してもリカバーできる方法を覚えました。失敗が学びとなって、次の成功につながります。昔からいわれていることです。

ヒットを作るための非合理な勉強

すでに成功したクリエイターでも、例えば細野晴臣さんは熱心な勉強家であり続けています。吉田さんや結果を出したプロデューサーたちは、勉強したり、社外でインプットしたり、努力していると思いますが。

吉田 もちろんです。私は、一口坂スタジオのレコーディングスタジオの1スタから6スタまでをすべて押さえて、売れるレコードを大量生産のように作っていた時代があります。多忙を極めましたが、それでも外に遊びに行っていました。新しいイベントがあれば参加し、新しいアーティストが出てくればコンサートに行きます。それは、世の中を知るための勉強です。何が流行っているのか、今どんなことが行われているのかは、スタジオにこもっていてもわかりません。寝る時間がなくなりますが、それが面白いのです。1年間に250本映画を観た年もありました。

今の吉田さんの話は、非合理的な勉強の仕方です。しかし、そのようなことをしなければ、新しい何かは生まれません。

吉田 ヒットを生むためには、世の中の空気や雰囲気を感じることが重要です。そのためには、世の中を実際に見て、体感して知って、感じなければなりません。さもないと、世の中に受け入れられるものやリードするものは作れません。したがって、逆説的には、残念ながら今は半径50センチの歌を作らざるを得ないかもしれませんが。
 特に、私たちの場合は2歩、3歩先ではなく半歩先のものを出さなければヒットしませんでした。遅れても、進みすぎてもダメだという恐怖に駆られていました。当時は3ヶ月毎にシングルレコードを出してヒットチャートを狙うわけですが、常に半歩先とは何かと問いながら、恐怖感と同時に、世の中の流行りや動き、空気感のようなものを感じることが楽しいのです。しかも、自分で投げたものが当たれば、さらに面白くなります。その好循環が成功体験につながります。

いわれたことを勉強する、の逆で、興味や好奇心が湧くものを自ら求め続けるのですね。

吉田 私も、あの時代の会社の中では、刺激をほとんど受けませんでした。当時付き合っていた人には、外部のミュージシャンやアーティスト、映画監督などのクリエーターが多くいました。そのような人たちに感性を育ててもらったような気がします。やはり他流試合で、トンガっている人に触れるチャンスを増やすことです。

自然、本物に触れる

吉田 また、現代人は自然に対して距離を取り過ぎています。自然が持っている豊かさ、同じものが一つもないこと、大いなる刺激、そのようなものを取り戻すことが大切です。
 森林浴の世界的な権威である李卿先生(日本医科大学付属病院臨床教授)によると、都会にいる人たちが1ヶ月に半日、森に行ってゆっくりその空気を吸い、五感で森の豊かさを感じるようにすると、NK細胞の活性と持続が認められ、抗がん免疫機能が上るそうです。子どもたちにもっと自然に触れる環境を与えることは、感じる教育の一つのやり方だと思います。そして、企業などでも自然の中に出掛けて研修を行うことが提案されています。

親子ともに新たな教育ですね。

吉田 もう一つは、子どもたちに本物を見せることです。働いている皆さんも常に本物に触れる必要があります。もっと美術館や音楽会に行って、本物の感性に触れる時間を持つべきです。これは感性教育の基本です。

複製物やメディアを通して見ています。すると本物とは感動の質が異なります。

吉田 何でもいいから、とにかく本物を見る、本物を感じることが大切です。子どもの頃から、日本の伝統芸能や文化を、本物の人を招いて教える、そんな教育カリキュラムが望まれます。例えば、公立の小中学校で毎月のように伝統工芸や芸能を見せる出張講義などをカリキュラム化する。能など訳がわからなくても説明の上、本物を見せるのです。日本文化に限らず、クラシックのオーケストラでも構いません。本物の弦楽四重奏を聴かせるのです。子どもたちに考えたり感じたりするきっかけを与え、感性を育むことが重要です。ついでに日本文化を見せると海外との差別化が図れ、国際競争力の源にもなります。

 海外の学校では、子どもたちを美術館によく連れていきますが、我が国はそのようなことをしていません。プログラミング、英語、ダンスの教育追加では、方向が違うと感じます。

本日はありがとうございました。

(Interviewer 本荘 修二 本誌編集委員)

補 説

Commentary
吉田就彦著「ヒット学」からの学び
〜インタビュー補説〜

 ここでは、吉田就彦氏箸『ヒット学 コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』(ダイヤモンド社、2005年)からの引用・抜粋をメインにインタビューの補説をします(図の出所は本書)。

顧客の心のメカニズム

 吉田就彦氏インタビューの「③クリエイティブになる方法」の「ヒットを作る基本」章で、
・ヒットは、便利か、楽しいかのどちらか
・ヒットを作る根本は「楽しい」の方によりシフト

とありますが、これに加え、刺激の強いものが増えて、
・人間の感情の動きで、堪能する、飽きるという部分が、とても速くなっている
と指摘されています。
 「ヒットが生まれていくときの顧客の心のメカニズム」を示した図1を見てみましょう。例えば音楽だと、聞いてみて感動して、ファンになる、なら成功ですが、クイックに堪能してスグ飽きることになると、消費されて捨てられるコンテンツで終わってしまいます。
 このフレームワークは他の商品にも当てはめることができます。自社の商品はどうか、どこが課題か、見えてくるかもしれません。いずれにせよ、「飽きやすくなり、商品のサイクルが短くなっている」という厳しさを増す市場環境に対して、やり方を更新・工夫し続けることが求められます。

プロデューサーの役割と能力

 本書では、コンテンツの「5つのヒットの要因」を、
・前提ヒット要因・・・時代のニーズ
・ヒット要因・・・企画、マーケティング、制作、デリバリー

と説明しています。前提ヒット要因を読み違えれば、努力してもヒットにはなりません。ニーズをとらえた上で、4つのヒット要因を統合してマネジメントすることがプロデューサーの仕事と言い換えることもできます。自社の商品と体制・プロセスは、どこが優れていて、何が足りないか、を考えてみてはいかがでしょう。
 なお、細分すると20に上るこれらの要因に従って単に頑張るだけでヒットするほど甘くはありません。ヒット要因は、必要条件であり、十分条件ではないと考えるのが良いでしょう。
 そこで本書では、さらに次のような「6つのヒット法則」を示し、
・ミスマッチのコラボレーション
・明確なコンセプト
・常に新鮮な驚き
・継続性・連続性
・付加価値
・顧客との会話や顧客同士の情報交換

がヒットを生むと説いています。
 もっとも「法則に合った企画やマーケティングを行ったとしても、必ずヒットになるとは限りません」とのこと。しかし、吉田氏の経験では、「このヒット法則にのっとり切れなかった仕事はほとんどが失敗に終わった」そうです。必ず成功する方法などありはしませんが、成功確率を上げる・失敗を避ける理論ととらえると良いでしょう。
 そして、吉田就彦氏インタビューの「①ヒットとコンテンツ産業」の「ヒットを生み出すのは誰か?」章で、
・ヒットを生み出すプロデューサーの全部で7つある能力の2つ目は理解力
と指摘されています。能力を考えるときに、まず2つが鍵となります。
・その商品を世に出すあらゆる活動に関わる「人」
・商品をヒットにつなげる火種、いわば「ヒットの芽」

 この2つのマネジメントが欠かせませんが、その能力を仕事のサイクルに該当させたものが図2です(これは「人」に関する図ですが、「ヒットの芽」についても同様に7つの能力サイクルが描けます)。理解力に加え、プロデューサーは、「プロジェクトに必要な人材を見つけ出し、その人たちを徐々に巻き込み、やる気を引き出して成功に導くマネジメント能力が必要」と説きます。

本書は、音楽に限らず広く多様な分野にも参考となるよう、論理的・分析的にフレームワークを紹介しています。事例も豊富で分かりやすいのですが、さっと読んで分かった気にならないほうが良いでしょう。インタビューでも感じる力や非合理な勉強などに触れていますが、文字通りクリエイティブにこれらのフレームワークを使ってみてください。

吉田 就彦(よしだ なりひこ)
株式会社ヒットコンテンツ研究所 代表取締役社長、
デジタルハリウッド大学大学院 名誉教授

1979年、キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)入社。制作ディレクターや宣伝プロデューサーとして「チェッカーズ」や「おニャン子クラブ」、「中島みゆき」などの数々のヒットを手がける。映画プロデューサーとしても「ビートたけし」原作・準主演の「教祖誕生」などの制作を行う。ポニーキャニオンでの最後の仕事は、国民的な大ヒットとなった「だんご3兄弟」。
1999年ポニーキャニオン退社後、デジタルガレージに取締役副社長として入社。同社は2000年12月にJASDAQ市場にてIPOを果たす。
現在は、デジタルコンテンツ関連事業のコンサルティングを行なう傍ら、文化庁や観光庁の事業で、地域活性化のため三浦半島地域の武家文化を活用する文化観光戦略をデジタルコンテンツ制作や観光事業支援を中心に展開中。
著書に、『ヒット学〜コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』(ダイヤモンド社)ほか。