第4回
閃きとアイデア

Something New

 今日の技術革新、イノベーション、デジタル化といっためざましい社会経済発展の背景には、必ず革新的なアイデアが存在しています。本連載でテーマとしている「新しい見方や考え方」とアイデアは切っても切れない関係にあります。皆さんも、ある日求めていたことが閃き、思いもしなかったアイデアが生まれたことがあるのではないでしょうか? 今回からこのアイデアについて考えてみましょう。

閃きとアイデア

 ここでアイデアの具体的な例を見ながら、アイデアとは何かを考えてみましょう。
A:暑さで食欲がない→「スパイスの効いたものを!」→「スパイシーな各国料理の組み合わせ」。例えば、タイ料理のグリーンカレーとインド料理のタンドリーチキンを掛け合わせたスパイスフルな料理を作ってみる。かなり辛そうですが・・・。
B:食品メーカーの商品開発部門で、定番のトマトジュースの新規開発を行う→「色を変えてみる」→「さまざまなカラーのトマトジュース」あるいは「透明なトマトジュース」などを開発する。

 これらのアイデアの要素を見てみましょう。Aで「スパイスの効いたものを!」とBの「色を変えてみる」のところは、問いかけに対して最初に頭に浮かんだもので、“閃き”と呼ばれるものです。続く「スパイスの効いた各国料理を組み合わせる」とBの「さまざまなカラーのトマトジュース」(あるいは「透明なトマトジュース」)を開発するところが、閃きを受けて具体化した内容となり、ここが“アイデア”と呼ばれるものです。
 Aの例では、こんな月並みなものがアイデアなのか? と思われるかもしれませんが、日常的な料理の献立を考えるというのは、個人レベルの典型的なアイデアの産物といえます。独創性の高いものだけが、アイデアではないこと。天才のような特別な人が生みだすのではなく、誰にでも生みだすことができるのがアイデアです。
 Bの例では、集団で協働して作り上げるアイデアです。複数による作業のため、課題に対して閃きからアイデアに至る段階でいくつかの選択肢が出てきて、その中の一つを選択することで最終的な具体的アイデアになります(因みにここで例にあげたアイデアは、既に商品化されています)。このようにアイデアには、個のアイデアと集団が生みだすアイデアとがあります。

アイデアの構造

 閃きとアイデアの関係について、一般的には、この両者をまとめて“アイデア”と呼ぶ場合が多く、「アイデアが湧く」とか「型破りのアイデア」というように、閃きとアイデアを渾然一体として、総称としてアイデアと呼んでいます。他方、認知心理学や認知科学、脳科学では、アイデアそのものというよりは、その切っ掛けとなる”閃き”に注目した研究が盛んに行われています。
 ここではこの「総称としてのアイデア」について、さらにその構造を考えてみましょう。両者の関係を表したのが、下記のイメージ図です。時系列に沿って考えるとわかりやすく、最初に突然閃きが生まれて、それが具体的なアイデアへと発展します。閃きは言葉通りに一瞬頭に浮かぶイメージで、いわゆる思いつきと類似しています。共にバブルのように生まれては消える寿命の短いものですが、閃きが思いつきと異なるのは、続くアイデアへと昇華するか否かにあります。共に脈絡はないものですが、閃きには、アイデアへと発展するための指針あるいは方向性が含まれているところに大きな特徴があります。
 閃きは一瞬に突然浮かぶもので、脈絡がなく定型化されておらず、まったくの自由自在な思考であることが特徴。これに対してアイデアは、閃きを受けて「論理的」に発展するもので、実現に向けての具体的イメージとなったり、客観的に説明できる内容となったりします。ただし、このような「閃き→アイデア」の時系列に沿わず、用意周到な準備や念入りな試行錯誤を踏まえた上での閃きなどは、最初からアイデアとほぼ重なるような事例も考えられます。

アイデア誕生に伴う2つの「カイ」

 誰しも何か素晴らしいことが閃いた時、思わず“にこっ”としてしまうのではないでしょうか?
 アイデアとは、当事者にとっての意識的・潜在的な問いかけに対して、その「解」となるものです。これがアイデアの持つ1つ目の「カイ(解)」です。
 そしてこの解が見つかった時の心理は、どのようなものでしょうか? 求めていた解法が思い浮かんだり、探しあぐねていた解が見つかった時に、思わず小躍りしたくなるくらいに嬉しい感情が湧き出てくるのではないでしょうか? これが2つ目の「カイ(快)」です。「アイデアが湧く」ということは、それまで体験したことがない新鮮な見方ができるようになることです。つまりアイデアの創出という体験は、当事者にとって新鮮な喜びでありエネルギーにもなりうるのです。
 発明・発見に限らず、日常における諸問題に対する新鮮な「解」は、日常生活の新たな視点や意欲を生みだす「快」となり、ひいては新しい見方・考え方にも繋がる点に注目です。

 今回は閃きとアイデアの関係や特性について見てきました。次回はさらに異なる視点から考えてみたいと思います。読者の皆さんも、閃きが浮かんだ時のこと—それはどんな時に、どのような環境だったか—を思い出してみてください。閃きやアイデア誕生の背景やメカニズムを、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
 誰しも何か素晴らしいことが閃いた時、思わず“にこっ”としてしまうのではないでしょうか?

中島 純一
公益社団法人日本マーケティング協会 客員研究員