『ビジネスに効く!演劇アプローチ 組織の活力を取り戻す「共感」「身体」「即興」』
『文化・芸術のマーケティング』

『ビジネスに効く!演劇アプローチ 
組織の活力を取り戻す「共感」「身体」「即興」』
広瀬 彩、須田真魚、黒岩健一郎 著 同友館

 演劇とビジネスの関係をすぐ説明できる人は限られる。本書のタイトルをご覧になった方は、研修で使用するアイスブレイクやエンタテインメントビジネスの内容と思われた方も多いだろう。しかし、筆者のプロフィールを知れば違った期待が生まれる。3名の著者は現役のビジネススクール教員である。そして2名は現役の俳優である。さらにその中の1人である広瀬氏は、英国王立演劇アカデミーで演劇を学んでいる。本書はビジネス、演劇、教育の活動領域が重なる3名の共演による「作品」である。その特徴は単に演劇の手法を紹介することではなく、ビジネスのどの領域に活用し、どのような効果が期待できるかを示していることにある。例えば、イノベーションを生み出す思考法であるデザイン思考と組み合わせた方法や、企業理念、パーパスなどを経営者、創業者として演じることから理解を深める方法が紹介されている。さらに文中には、本書のベースになった青山学院大学ビジネススクールの講義科目「ビジネスへの演劇アプローチ」などの事例が豊富に紹介され理解を助けてくれる。
 マーケティングやイノベーションに携わる人々だけでなく、社会で活動する人々が物ごとをうまく進めるためには、他者の視点取得を通じた理解が必要となる。この視点取得を本書では「パースペクティブ・テイキング」と呼ぶ。「パースペクティブ・テイキング」にはエスノグラフィーなどの方法が存在する。しかし、習得には一定の期間を有し容易に取り入れることが難しい。本書によれば、演劇では自身とは異なる他者を「観客の前に生存させる」ことが求められると言う。この「役」を作り込むための方法、効果を具体的に示している。例えば、役作りの方法として「身体を使う」ことの効果、俳優の脚本の読み込み方法などである。役作りのため身体を使うことは他者への表現と共に、自身の新たな認識に有効なのである。本書はエスノグラフィーの習得のファーストステップとしても活用できる。
 他者の視点を取得することはマーケティングや開発担当だけでなく、創造能力、対人コミュニケーション、教育の場面でも非常に重要である。本書によって、イノベーションの促進と共に企業理念や目標の組織浸透、コミュニケーションなどの領域への実践活用が広がることに加え、新たな調査法の開発などへ展開が期待される。

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近畿大学 経営学部 教授/商学科長
デザイン・クリエイティブ研究所所長
廣田 章光


『文化・芸術のマーケティング 
Bunkamuraも実践する“満足”を生み出すチャレンジ』
荒木 久一郎、文化芸術マーケティングラボ 著 
東急エージェンシー

 本書は劇場・音楽堂など狭義の「文化施設」をメインに取り上げているが、「はじめに」に書かれている通り、まさに広く文化事業に携わっている方々、またはそれらを目指そうとしている方々にぜひ読んでいただきたい書籍である。
 私自身はマス広告~デジタル・マーケティングの経験が長いとともに、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]の設立・運営、文化財のデジタル化・デジタル活用を通じた地域活性化事業に携わっており、おおいに共感しながら本書を拝読した。またBunkamuraには「未来の音楽会」をはじめ様々な施策でお世話になっているが、本書で紹介されている事例を通じて、Bunkamuraの取り組みの背景にある深い思索とたゆまぬ努力をあらためて学ぶことができた。
 本書は4章からなっており、第1章では文化施設の存在意義や機能の説明を通じて、社会における「文化」の重要性を訴求する。そしてそれを事業として継続させていくための視点を提示する。第2章では文化施設における「公演」を対象としたマーケティングの基本的な考え方、さらに第3章では実際の活動内容について詳細に説明する。文化・芸術のマーケティングを議論する場合、その内容の多様性から焦点が定まりにくいことがあるが、本書の第2章、第3章では「公演」に対象を絞り、具体的な事例をあげながら、徹底して「鑑賞者の満足」および「事業運営」という視点から語られているため、わかりやすくかつ他の文化事業にも通じる普遍性を提示できている。そして第4章では昨今の社会状況や文化施設の現状を踏まえ、「ファスト化」「教育」「地域社会」というテーマについて提言がなされている。この3点は(広義の)文化施設運営者はもちろんのこと、文化事業に携わっている方々であればどなたでも関心をお持ちのテーマであろうから、おおいに参考になるものと思われる。
 本書は筆者の社会および文化施設の現状に対する真摯な洞察に基づいているが、それは本書の体裁にも現れており、とてもコンパクトにまとめられ、日々の業務で忙しい方にも読みやすい一冊となっている。一方で先行研究からの引用が豊富になされており、参考文献リストも充実しているため、さらに考察を深めたい方の期待にも十分応える内容となっている。ぜひ継続的な内容のupdateや詳細版の公開をお願いしたい。

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株式会社NTT ArtTechnology 代表取締役社長
国枝 学