第40回
少子化と高齢化を乗り越える
理想都市の建設とは

大坪檀のマーケティング見・聞・録

 2024 年の日本は、能登半島地震と羽田での航空機事故で始まった。想定外、予期せぬという言葉がメディアで踊ったが大地震の到来、航空機事故問題は常に論ぜられ、それ相応の対応· 対策を講じてきた。

 この道の専門家、識者は南海トラフ地震、首都直下地震、富士山噴火などの大災害の発生を予測、いろいろとシミュレーションし、引き起こされる諸問題を描き、それなりの対策を多角的· 多面的に進めてきている。
 しかし、今回の能登半島地震は発生する大災害を想定し復旧· 復興構想を地域が練るにあたり、もう一歩踏み込んだアプローチを考察する必要性を提起しているように思われる。それは、日本が直面している人口減少と高齢化社会の進行により、消滅が懸念される地方の多数の限界市町村の存在だ。能登半島地震級の大地震が今後多くの限界小都市を抱える地域に発生した時、復興をどう考えるのか。地方の産業は何を考えるべきなのか。これからの地方再生をどうするのかを根本から考えるチャンスの到来でもある。
 戦後アメリカの大学院でアメリカの戦後経済· 産業の動向を論じるセミナーに参加して耳にした言葉だ。「戦争で日本の産業は多くの機械設備、工場を失った。一方でアメリカの産業は多くの古い機械設備、工場を温存し、それを使い続ける破目になった。いつの日か日本は最先端の機械設備· ノウハウを手にして、アメリカの産業を苦しめることになる。敗戦で日本はすべての面で革新できるのだ」と。言われてみれば戦後の日本の発展は目覚ましい。日本の未来を、暗く悲観的に誰しもが描いていたものだが、焦土化した国土は近代化し、都市の姿は一新。新幹線が世界の高速鉄道のモデルにもなった。戦後の日本産業は技術導入· 合弁· 海外研修などで最新式の技術を取得し、新工場を立ち上げて近代化した。日本の自動車産業は世界中で売り上げを伸ばしている。日本の勢いが落ちたといわれる昨今でも、アメリカの象徴的製鉄会社を買収しようとする勢いだ。
 2024 年の始まりは能登半島地震だったが、株式市場は熱気を帯び始め、バブル期を想起させる。大地震に襲われた熊本県が今、半導体産業を誘致し、新型のシリコンバレー型企業が誕生、高所得の雇用を生み人口流入を招いているという。宮城県や神奈川県でも新産業の集積都市が誕生しようとしている。この欄でも紹介したが、筆者が関係する静岡県の東部地域では「ファルマバレープロジェクト」と呼ばれる医療産業の集積地帯を創造し、シリコンバレーに匹敵する世界的な高付加価値医療産業の地域づくりに取り組んでいる。このプロジェクトに山梨県も参加し勢いづいているが、東南海大地震と富士山噴火のリスクにさらされている中での大挑戦だ。地元· 長泉町では人口増加が始まり、高所得世帯数の人口割合が多い地域となり、奇跡の長泉町と言われている。
 この地域一帯は人口の少ない、人口減少に悩む市町村が多い。その反面、その気になれば活用できる土地、人的· 物的資源はある。医療産業のような高付加価値産業は高所得産業でもあり、高所得をめざして若年層の頭脳労働者が移住してくる。高額の住民税を払う、高レベルの住宅に住む⇒固定資産税が増加する、こういった傾向に目を付けて医療産業をベースにする「医療田園都市構想」を東部地域に立ち上げている。東海地震が起きたら、富士山が噴火したらどうするのか。
 もちろん当面の心のこもった暖かい救助· 援助· 復旧活動は必要不可欠で、長年にわたり多面的· 多角的にその策は練られているが、考えてみれば、そのあとの復旧· 復興はこの医療田園都市構想を下敷きにして着々とすすめればよいということにもなる。
 能登半島地震は、人口減少と高齢化社会のもたらす経済的· 財政的· 社会的な諸問題を念頭に入れて持続可能な理想的な地域社会⇒理想的な地方都市の在り方を再設計する好機でもある。それぞれの地域社会、地方都市の実態、文化的・経済的特徴を踏まえ、理想的な人口、インフラの形態、財政規模などを考慮し一歩踏み込んだ新都市計画を想定してみてみる、日頃から復興計画を念頭に実際に発生した地震災害に対応するというアプローチだ。
 理想的な新都市を描くとなると従来の減衰する地方都市、町村の在り方も問われることになる。平成の大合併を記憶、経験した人は能登半島地震の惨状を見て何を考えるか。少子化と高齢化は多く地方の経済· 社会生活を一変させる。理想都市を描き、令和の新合併を構想し、チャレンジする地方· 地域が出現してもよい。日本のマーケターはこの理想都市をどう描くだろうか。

Text  大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 特別教授