特集


Z世代のリアルライフ


─5人の「これまで」と「これから」─

by ツノダ フミコ氏
株式会社ウエーブプラネット 代表
本誌編集委員長

 ここまでデータにてZ世代を見てきたが、ここではZ世代とその際世代(28歳と14歳)の5名が登場する。それぞれに職業も立場も異なる5名だが、Z世代全体においても、また現在の日本人の家計水準などにおいても比較的恵まれている層の5名である。
 本来なら、たとえば先出の「価値観クラスター」に該当するそれぞれの暮らしを見ていくことが有意義であるが、本特集の目的は体系だったZ世代の調査研究ではない。Z世代に対するさまざまな情報、視点、ヒントの提供が役割であり、そこからの気付きやひらめきなど情報の加工編集はお読みになった方々に委ねたい。
さて、Z世代は話題になってはいるものの、何も絶滅危惧種や天然記念物であるわけもなく、わたしたちの日常の、いつでもすぐ隣にいる人たちだ。観察対象には事欠かない。しかし、身近だからこそ見えていないことや気付きにくいことも多々あるだろう。パーソナルヒストリーのような話もそれなりの信頼関係を築いた後でないと聞きにくいこともある。
 ここに登場する5名のこれまでの歩みと現在の生活に描かれていることは、同じ時代の、あるいは同じ世代の他の誰かの日常にも見られることに違いない。いかにもZ世代らしいと感じる意識や行動もある一方で、「らしくない」と感じるところもあるだろう。世代を括り、世代を戦略に活かすとはどういうことなのか。一人ひとりの暮らしはただ一つの物語を持つが、私たちマーケティングに関わる者の目を通せば、それは一つの物語を超えた存在になっていくに違いない。

受験も仕事もいつも全力投球、新婚2年目会社員

Texst:中塚 千恵

 結婚したのは、2021 年の3月。妻となった彼女とは長くつきあっていたため、一種の責任を感じていたこと、また、家族寮に入れば一人暮らしの金銭的な課題を解決できるとも考え、結婚した。だが、後ろ向きというわけでも決してない。結婚しても、生活自体は大きく変わっていない。義父母の相談を受けるようになり家族が増えたことを実感している。学生時代の友だちも、ここ数年のうちに結婚している人が多い。
 コロナでさまざまな楽しみも制限されていることもあり、自分もそうであったように新たな生活に踏みだすことを決意する人が多いのではないか。
 先日出席した友達の結婚式では、婚活アプリでの出会いが普通になっていることに驚いた。コロナで出会いが減った影響もあるが、自分に合う人をより効率的かつ効果的に追求したいという気持ちの表れか。
自分自身も生活の基盤である「お金の遣い方」において、そんな傾向がある。コスパの高いものを買うことが何よりも重要。衝動買いはせず、付加ポイントなど検討を重ねて購入する。コスパを重視することは、学生時代の洋服の選び方と同様、「他者の判断」を気にしているのかもしれない。周囲と調和しようという気持ちが強いのだろう。

まとめ

 彼は、「Z世代」もしくは「ゆとり世代の最後尾」に所属する人である。
 転職は当たり前ではないと話す彼は2つの世代の影響を受け、さまざまな判断基準を持っているのかもしれない。インタビューでは、繰り返し「効果的かつ効率的」と「一所懸命」が大切だと話す。彼が10年後も「一所懸命」を大切にしたいという世の中であることを願いたい。
 これから、家族形成期を迎えるだろうZ 世代の結婚はどうなっていくのか。同じ年代の既婚女性は「コロナだと彼氏としか会わない。それだったら、結婚した方が効率的」と話す。彼は、「生活基盤の安定のためにも結婚した」と話す。「好きだから結婚」と言わないのは単なる照れ隠しではないだろう。結婚に、生活の基盤を充実させたい堅実性が見える。
 Z世代にとって、「実際に会える人」は減っているが、気軽に増やす手段は発展し、結婚という人生の大事な局面でも受け入れている。より効果的かつ効率的な選択を自然に求めていく。
買い物、結婚など様々な場面で、選択や判断はより効果的・効率的になっていく。

VR技術でIPOをめざす、学生時代からのベンチャー起業家

Texst:德田 治子

 幼少期海外で育ち、帰国子女枠で大学入学。入学当初からVR技術を用いた事業をサービス提供していきたいと考え、勉強よりも、起業のための人脈形成を重視して大学生活を過ごした。
 日々の情報収集は速度と信用を重視しており、テレビよりもインターネットを活用する。ただし、フェイクニュースも多いので、情報は選別する。たとえば、和訳のニュースではなく、なるべく現地ニュースを読むようにしている。また、お店探しの際には、ぐるなびやホットペッパーなどは、企業が情報をコントロールしているように見えるため、Googleや信頼している人のTwitter、インスタを確認する。買い物やサービスは、良いものを低価格で得られるようにしている。余計なものは買わない。例えば、車は、カーシェアリングサービス(1時間800円レンタル)にし、趣味のアップルウォッチバンド収集でもメルカリなどを利用。社会問題への関心は高いが、環境問題への関心は、あまりない。

まとめ

 Z世代初期の起業家。学生時代の頃から、目的意識を明確に持ち行動している。
  お金を稼ぐためだけの仕事はやりたくないと断言し、サラリーマンになるという選択肢は持っていない。自分がやりたいことで仕事をしていくために起業し、当面は、全身全霊で、VR技術を用いた事業を力強く成長させ、IPOすることをめざしている。
 現在は、社員は学生時代からの仲間が中心の会社だが、会社を大きくする過程で、立場の異なる従業員を雇う立場になったときに、経営者として大きく成長するのではないだろうか。
生活面では、現在は親元で暮らしているが、今後、結婚や家族が増えるなど、ライフステージが変わっていく過程において、「お金を稼ぐためだけの仕事はやりたくない」といった彼の考えにどのような変化がでてくるのだろうか。

人生のロールモデルは母、自立自活で海外を目指すSE女子 

Texst:德田 治子

 リモートワークのため、家で過ごす時間が長い。仕事の合間にリビングのソファでスマホを見ながら、フォローしている350人のSNSやインスタをみるのが毎日の楽しみ。
 インスタでカラフルなものを見ると目にとまる。美しいものを投稿している人を見つけると、必ずフォロワー登録するようにしている。最近はまっているのは、インスタ投稿で見つけたアルコールインクアート。色鮮やかなものを見ると心がときめき、気持ちを明るくしてくれる。人生のロールモデルは一番身近にいる母親。人間いつどうなるのかわからないから、経済的に自立したほうがよいと言われ育った。自立自活を意識して、学生の間もアルバイトをしてきたし、この先ライフイベントがあっても仕事は続けていきたいと思う。今年結婚するので、今の会社はしばらく続けるが、来年以降は、コンサルティングファームへの転職も視野に入れている。今後は、海外で働きたい。

まとめ

 Z世代初期の会社員女性。学生時代クリスチャンの女学校で中学、高校を過ごした経験から、自ずとセルフコントロールし、隣人を愛することを大事にしている。
人生のロールモデルは最も身近にいる母親。人はいつどうなるかわからないと、父親に頼らず、バリバリと仕事をしてきた母親の背中を見てきた彼女も、生涯自立自活をめざしている。ライフイベントがあっても働き続ける意思は固いが、結婚し、母親として子供を育てていく過程で生涯自立自活の設計がどのように変化していくのだろうか。
 環境問題についての関心はあまりない。エコバッグを持って買い物に行くとか、マイカップでスタバのコーヒーを飲むことくらいだと言っていた。消費行動ではブランドには興味がない。商品機能性や色(カラフルな色が好き)を重視して、コスパで選んでいますと言っていた。

世界を変えていく信念と誇り、Dubai在住女子学生

Texst:松風 里栄子

まとめ

 社会課題に関心が高く、その解決に自らも積極的に関わろうとするのがこの世代の特徴のひとつと言われているが、自室のPCモニタのすぐ上、いつでも一番に目につく場所にJ・F・ケネディの写真を貼り、毎日眺めている女子学生は世界広しといえどもそうそうお目にかかれるものではないだろう。
 若くして世界に対して大きく強い発信力を持ったJ・F・ケネディのように、自分もまた社会に対して影響力を持てる存在になりたいと努力を厭わない。いずれ同志ともいえる人たちと出会い、身の丈ではなく、大きな世界で大義のために活動し、歴史に名を残す。彼女が見ている未来は明るく、力強い。
インテリアのテイストで男女を語るのは憚られるが、部屋の写真を見たとき、兄か弟の部屋かと思ったほどだが、ファションはメタバースの中で楽しんでいるとのこと。

ゲームと軍事が大好物、アメリカ留学中の中学男子

Texst:ツノダ フミコ

 情報源はもっぱらYouTube(最近は就職やブラック企業やホワイト企業、株の仕組みに関するものをよく見ている)とゲームでつながっている20代後半のガーディアン(詳細プロフィールは彼も知らない)。目下の不安は留年や単位を落とすこと(私立ゆえに中学でも容赦なく落とすらしい)。
 将来は高望みをしても仕方ないので、「土日にしっかり休める有名ホワイト企業=いい会社」にとにかく入りたい。自分の時間が確保できれば給料は安くてもいいから日本で働きたい。名の知れた大企業だと自慢できるから、そうなるといいけれど。海外に今ひとつ魅力を感じない理由は食事。日本のご飯のおいしさはモチベーションに直結する。いい会社に入るためには就職に強い大学に帰国子女枠で入ることを考え、そのためにはアメリカの高校入学が必要で、当面は弱点でもある単語力を強化し、SSATとTOEFLのスコアをもっと伸ばしていかなければ、と思っている。

まとめ

 Z世代の最後尾でありα世代の先頭でもある中学生。自分の意志で自由に動ける年齢でもなく、また価値観や将来展望も今後大きく揺れ動いていく中学生。しかし、案外中学生当時の思いが後々まで影響する人は多い。
 彼の描く「いい会社」の定義や自由時間の過ごし方は今後変わっていくだろうが、「自分の自由時間」に対する非常に強いこだわりや願望はどうなっていくのだろう。「高望みしても仕方ない」ゆえに「普通に会社へ行って、土日遊べればベスト」とする将来設計が、成長とともにどのように変化していくのか。
 環境問題や選挙の投票については「この考え方がいいとは思わないけれど、オレ一人がやったところで実際何も変わらない」と、きっぱり言っていた。「中二」の現在を通り抜けた後、彼の目には何が映るのだろう。