『スキルシェアのすすめ
─なぜ知の共有がウェルビーイングを向上させるのか』

『スキルシェアのすすめ
─なぜ知の共有がウェルビーイングを向上させるのか』
青木 慶 著 千倉書房

 本書は、知識共有とウェルビーイングの関連性に焦点をあてた書籍である。筆者は、「なぜ知の共有がウェルビーイングを向上させるのか」という問いに迫り、非金銭的な価値に着目する。また、ウェルビーイングを測る尺度は、ペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授が提唱した5つの要素で構成されるPERMAと呼ばれる持続的幸福度を採用している。これまで数多くのウェルビーイング尺度が開発されてきた中、知識共有との相性からPERMAを採用している点は特徴がある。この枠組みによって、知識共有の具体的な効用が浮かび上がる。
 知識共有と持続的幸福度の関係を定量的に分析するために、アンケート調査を行っている。その結果、知識共有が持続的幸福度の向上に寄与していることが明らかになった。これまで知識共有の効果を定量的に示すことは難しい課題であったが、持続的幸福度の観点からアプローチすることで、新たな可能性が開けている。さらに、個人知の共有が行われるメカニズムを探るために、インタビューを通して定性分析を行い、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)を用いて深い洞察を提供している。これにより、知識共有のプロセスが多くの具体的な内容によって示されている。定量調査から定性調査による深掘りが行われ、丁寧に分析が進められている。
 研究結果に加えて、実際の事例やエピソードを交えることで、理論を読者に身近なものとして感じさせている。よって、読者は実生活における知識共有の具体的な効果を深く理解できる。専門用語を極力避け、一般読者にも理解しやすい形で情報を提供している点も魅力の一つである。
 本書の目的は、個人知の共有を促すことにある。そのため、行政や企業に対する提言に多くのページが割かれており、筆者の熱い思いが伝わってくる。知識共有の重要性を認識し、実践するための示唆に富んだ内容であり、幅広い読者にお勧めしたい一冊である。

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名城大学 経営学部教授 山岡 隆志