第34回
超高齢社会の
未来社会デザインを創造せよ

大坪檀のマーケティング見・聞・録

あと2年足らずで2025年。この年、世界万博が大阪で開催され、近未来の世界、日本の姿、経済界の発展動向を世界が競って展示し、わくわく感が日本中にみなぎることになる。戦後の大阪万博を思い出す。月から持ち帰った石が大きな目玉だった。

 あれから世界は航空宇宙産業、情報化産業、高度医療産業、電気自動車産業など多くの分野で驚異的な展開を見せている。第一回大阪万博が開催されたのは1970年。今回のテーマは“いのち輝く未来社会のデザイン”。
 この2025年は大阪万博に興奮した戦後世代→団塊の世代(約800万人)が一斉に高齢社会入りする年でもあり、日本の大変容を誰もが身近に日々感じる時代に突入する年でもある。全所帯中、高齢単独所帯が約37%、夫婦のみ高齢所帯が33%を占めると予測されている。高齢者人口が東京圏では顕著になる。埼玉県で196万人、東京が308万人、神奈川県226万人で人口比率で見るとなんと第1位は埼玉県。首都圏市場は日本で最も急速に展開する高齢化市場となり、東京圏ではどこを見ても高齢者の姿ばかりということになるが、世界の一大巨大マーケットはどう変容していくのか。
 日本の人口は2050年にはなんと1億人になると推定されている。現在より2,500万人減少=東京圏の人口に匹敵する市場が消滅すると考えることができる。この日本、どんな形の国になるのだろうか。日本は高齢化と人口減少の先進国。中国、韓国をはじめ世界の多くの国は日本と同様に高齢化と人口減少の道をたどり始める。日本が高齢化と人口減小の中で先駆けて高度な経済活動、生活水準、生活文化を創造し世界にそのモデル、新秘策を提示する時代でもある。
 高齢者は何を求めているのだろうか。筆者の大学が地元の藤枝市と協力し、高齢者市民を主たる対象に市民大学を開設、市長が学長で、授業は静岡産業大学の藤枝キャンパスを活用。教養科目が主体だが、リカレント、ブラッシュアップ的なコースもある。大学生や高校生にも開放。恐る恐る受講者募集をしてびっくり。教養コースの予定定員が50名だったのになんと200余名もの市民が受講申し込みをした。諸コース合計予定定員200名に対し500名近い申し込み。第一回でもあるので全員合格。教室を分散しTVで受講するクラスも設定して何とか対応したが、驚いたのはその学ぶ熱意と好奇心、知識水準の高さ、それにエネルギー溢れる元気な姿。
 人生100歳時代が現実のものになる。定年後の年金生活の厳しさばかり取り上げられているが、年1回はクルーザーの旅を楽しんだり、海外の友人や子どもたちと再会する旅行をしたり、大学院に通っているとか、俳句の投稿で賞をもらったとか、日本の百名山踏破など今までは考えられなかったような結構な新生活を満喫している人も多い。アメリカの高齢者の一団が94才のアメリカ人学者の案内で日本の庭園を見るツアーを楽しんでいるのに遭遇。健康長寿、経済的余裕と知的水準の高い高齢者層が多くの国に出現。日中友好推進関係者から、中国には日本の経営やマーケティングを学びたい層が存在、来日ついでに日本の人間ドックを受ける医療観光の話も聞いた。
 高齢者がどのような社会を作るのか、生活行動、欲求の変化、内容、課題の研究はすでにいろいろな角度から始まっている。健康で、知的水準の高い高齢者には金銭的な余裕とは別に手に入れた巨大な時間資産を持て余し退屈病に陥っている人もかなりいる。筆者の場合は蓄積した書籍や資料の山を前にして、その処分に頭を悩ましている。今更これといって特別に欲しいものはなく、いつの間にか溜まった物品の山を前に、一時期流行した“シンプルライフ”、“シンプル・イズ・ビューティフル”の標語を思い出す。産業廃棄物、家庭ごみの処分は今や社会問題。この問題の解決策の一つはシンプルライフをベースとする新しい消費文化の創造にあるのかも。高齢者にとって買い物は厄介な日常行動。流通業界はどう対応するのか。デジタル化社会はドンドン進展、その進展についていけないのが大半の高齢者、詳しくはホームページでどうぞ、と言われても戸惑うのが大半の高齢者層だ。
 高齢者の中にはあの世に持っていけない財産をたくさん持っている人も多い。“相続税で争族を生む”と揶揄する人も。革新的なビジネスモデルの創造する機会が世界に先駆けてこの日本に登場。“高齢化社会で命輝く未来社会のデザイン”の創造に日本のマーケターが腕を振るうときが到来したのだ。

Text  大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 所長