『マーケティングをつかむ 第3版』

『マーケティングをつかむ 第3版』
黒岩健一郎・水越康介 著 有斐閣

 マーケティングの基本的理論の大切なポイントを的確につかめる好評テキストが、このたび版を重ねてバージョンアップした。初版から約10年、定番テキストの1つとしての地位を築いている。
 本書最大の特徴は、なんと言っても討議を念頭に置いたショートケースが各Unitに配置されていることだろう。ケース記載のマーケティング担当者の立場で、直面しているマーケティング問題に対する具体策を考えることで、自転車に乗る練習をした時のようにエッセンスを経験的に理解できる。ケースの中に、理論の理解につながる工夫が埋め込まれているのは、ビジネススクールで日々社会人教育に取り組み、ケースメソッドに精通されている筆者ゆえの賜物だろう。本書の想定顧客は学部学生およびその教員となっているが、日々実践の中で様々な意思決定に直面する実務家にとっても、基本的な内容を深く学べるものになっている。例えば、ビジネススクールへの挑戦を考えている方が、まずは一人で本書に向き合ってみるのも良いだろうし、異業種の仲間同士で輪読会を行ってみるのも面白いのではないだろうか。
 本書の解説が簡潔でわかりやすいことは言うまでもない。各Unit最後の関連書籍の紹介では、多くの人が知っているであろう映画や漫画、小説が含まれている点も特徴的である。これらは必ずしもビジネスを主題にしたものではなく一見意外だが、理論を通して見てみれば、そういう見方もあったかと思えるものばかりである。ここで紹介される書籍に限らず、学んだ理論を起点にして、日頃のマーケティング実務の見え方を少し変えてくれたり、実践の中に潜むチャンスの種を見出しやすくする工夫が施されている点もまた、本書の良さだろう。
 本書は、実践を念頭にした討議から理論のエッセンスをつかめると同時に、理論をもとに日頃の実務を振り返り、更なる実践を考える起点を手に入れられる“1粒で2度おいしい”テキストである。

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岡山大学 学術研究院 社会文化科学学域
教授 日高 優一郎