第31回
人口減少社会における
マーケティングの役割

大坪檀のマーケティング見・聞・録

マーケターの基本的な仕事、最重要な任務、腕の振るいどころは需要創造、それに必要な生活文化の創造。今再びこの役割、腕の振るいどころがやって来た。戦後の日本の発展は優れた需要創造活動と新商品、新サービスの開発、新市場の開発に懸命の努力をしたことによるところが大きい。

 今再び全く新たな視点からこの取り組みが求められている。
 コロナ後、日本の社会が直面するものはなんといっても人口減少と高齢化社会の出現。これがもたらす影響はじわじわと各所で浮上、話題になってはいるが、コロナ後の日本ではこれが最も深刻、身近な問題となり、いろいろな対応、戦略変換に多くの企業が迫られるのは必定、すなわち、パラダイム転換が始まるのだ。戦後の日本社会はこれまでずっと人口増化と高齢者の少ない社会環境の中で発展してきた。社会インフラの構築、社会制度はすべて人口増と若手人口を前提として計画され、それに見合った経済、都市、生活手段が整備され、商品、サービスが開発され、多くの市場が誕生した。人口増は市場を作り、企業成長を促進した。
 ところが今やこれが逆転。人口が減りだした。コロナ禍のせいにしていた町の寂れはコロナ後、人口減と高齢化で一層寂れ、ゴーストタウン化の雰囲気が顕在化する。
 この影響を身近にじわじわ感じるのが地方だ。都市銀行の支店が消滅しだした。庶民の銀行と呼ばれるゆうちょ銀行もなくなるのではという。小中高校の統廃合も目に付く。スーパーの姿も減りだし、シャッター通りの多くはゴースト化の傾向にある。地方のショピングモールにも影が差しはじめているという。とにかくこの日本、1年間に鳥取県と同じ位の人口が減少し始める。5年後の日本から約300万人近くの人口が減少すると推定されているが、当然のことながら人口減に見合った消費減がいろいろな分野で起こる。
 人口が少なくなると貧乏になるか。人口の少ない国で一人あたりGDPが高い国はたくさんある。その世界のトップクラスはルクセンブルク、スイスやノルウェーが続く。福祉国家の手本として学んだ北欧の国々の人口は日本の大型県より少ないのに豊かだ。天然資源に恵まれているなどいろいろ解説があるが、本気でその秘密を学んでみてはどうか。日本は戦後の発展戦略に当時のスイスをお手本にした。日本の精密産業=高付加価値産業はスイスをお手本にしたのだ。
 人口の中味を見ると需要創造の手口が見えてくる。切り口はいろいろだが、所得で見ると眼に付くのが富裕層の出現で、中国、アメリカ、日本にはこの富裕層が増加している。富裕層は新たな市場を作る。世界の富裕層を研究すると新商品、新サービス、とりわけ付加価値の高いものの需要創造の切り口が見つかる。レジャーボートのメーカー担当者が、アメリカや中国の富裕層が注文してくるレジャーボートは1億円以上のものばかりで、日本人の考えているものとはけた違いだと語ってくれたのを思い出す。戦後の日本のビジネスは海外、とりわけアメリカの高度な夢の商品、生活様式を追求、大きなビジネスにした。お手本はアメリカにあった。身近なコンビニも、ショッピングモールも元祖はアメリカ。戦後の日本の産業界はあれこれとアメリカに視察団を繰り出した。日本生産性本部はこの活動に大きな働きをした。当時留学生だった筆者はボロ自動車でショッピングセンターやデパートなどに案内した。日本人はそこら中でみなカメラをパチリパチリでこれが評判の光景になった。
 アメリカのマーケティング学者が、グローバリゼーションの進むアメリカ産業界の中で、これからマーケターに必要な新しい学問は文化人類学だと叫んでいたのを思いだす。クリスマスはもとよりハロウィンやバレンタインデーがいつの間にか日本の文化に変容。バレンタインデーでチョコレート消費文化が日本に創造された。誰が仕組んだのか。
 人口減少と高齢化で日本の市場が縮小するならば世界市場をもう一度見つめ直す。静岡県は日本一のお茶生産地。国内需要は停滞。しかし世界では年間8万トンも需要が増えている。地産地消はビジネスの成長を阻む。脱地消、新市場開発戦略が不可欠。ウクライナ戦争後の世界市場にどう対応するか。本格的な新型のグローバルマーケティングの時代が到来する。
 日本は戦後、自動車、家電製品をはじめ、外国製品を徹底的に研究、リバースエンジニアリング、日本式品質管理で世界市場に挑戦。まだまだこの手法で需要創造ができる。福袋やおもてなしのアイデアはグローバルマーケティングで生かせないものか。

Text  大坪 檀
静岡産業大学総合研究所 所長