INTERVIEW


生活者にとってのCO₂削減
の変遷と未来

中平 充 氏
株式会社博報堂
第二ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長
マーケティングプラニングディレクター

Interview

───生活者の環境意識や行動の変遷についてお伺いしたいのですが、まずはCO2削減というテーマで教えていただけないでしょうか。

中平 「環境にいいことをしよう」「地球環境を守ろう」という呼びかけや、ごみの分別や節電などの生活上の工夫などは以前からありました。例えば、“リサイクル”という言葉が環境白書に登場したのは昭和55年のようです。その後も、エコ活動や3Rなどのキーワードとともに普及し、2005年から2009年まで日本国政府が主導した「チーム・マイナス6%」で生活者にもクールビズや省エネ家電が一気に広がりました。この活動も実はCO2などの温室効果ガスの削減を訴える活動でした。
 多様な環境に関する活動はありましたが、地球温暖化は食い止められておらず、国際社会は数値目標にもっとコミットして推進していこう、という流れになっています。2016年に発効されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という世界的な目標が示されました。日本も2020年には菅総理(当時)の所信表明演説に採用され、翌2021年には日本の削減目標を引き上げるなど、より一層の努力を政府は表明しています。
 こうした動きがニュースや新聞などでも報道されていることもあり、「CO2の削減の必要性」や「脱炭素社会」を目指す流れは徐々にですが生活者にも広がりつつあるようです。実際に博報堂が実施した「第二回 生活者の脱炭素意識&アクション調査(2022年3月実施)」を見ると、「脱炭素」の名称認知は90.8%。「カーボンニュートラル」については85.6%と、2021年9月に実施した第一回調査時点の77.7%から8ポイント程度増えています。ただその一方で、低炭素、カーボンオフセット、カーボンリサイクル、ゼロエミッションといったような一歩踏み込んだワードになると、認知度は5割前後、多くて6割程度のスコアにとどまっています(図表1)。

 「脱炭素社会の実現を目指すこと」への関心を聞くと、「関心がある」と回答した人は約7割(図表2)、取り組んでいくことについて「必要なことだ」と回答した人は8割以上にものぼっており、漠然とはしているが“すべきことだ”という意識も高いようです(図表3)。

 一方で、実際に、生活の中でどの程度意識しているか、行動しているかを聞くと、「非常に意識して行動している」といういわゆるトップボックスは3%程度、セカンドボックス(「ある程度意識して行動している」)までを含めても3割程度と、“脱炭素のために”行動しているという人は一定数にとどまっています(図表4)。

生活者にとってのSDGsと脱炭素の関係

───脱炭素、カーボンニュートラルという言葉を聞くときに、SDGsという言葉も併せてよく使われますが、SDGsへの認識の高まりはCO2削減に向けた生活者の行動や意識にも影響していると思われますか。

中平 SDGsもご指摘のとおり、ここ数年で一気に若い方も含めて認識が高まりました。博報堂が取り組むSDGsプロジェクトでも、さまざまな若い方に取材をさせていただいていますが、ここ3~5年での意識の変化を強く感じています。
 彼らにとってSDGsは、“社会を良い方向に導いていくために自分たちも積極的に考えるべきことの総称”という認識になっていると思います。必ずしもこれまでの常識や当たり前にこだわらず、悪いものは変えて、良いものは積極的に取り入れていこうと考えており、脱炭素についてもその一つのようです。

環境意識はあるけれど、行動まで結びつきづらい生活者

───環境意識については、年代別の差があると言われていますが、どう感じていらっしゃいますか。

中平 SDGsもそうですが、環境意識でも年代別の意識の高さはU字カーブになっています。先にあげた「脱炭素への関心度」でも年代別にみるとU字を描くようになっていました。若年層は高校や大学で勉強していることもあり、いわゆるZ世代と呼ばれる若者では高くなっています。30代から50代では意識は下がり、中でも男性のほうが低い傾向にあります。女性のほうが日々の家事や子どもを通じて考えるきっかけが多いのだと思います。そのため、できることはやらなければという意識が自然と高くなりますが、男性のほうは毎日の仕事に必死なためか気にする余裕が持てないという印象です。一方、60~70代では自分の生活はもちろん、地域社会や次の世代への意識が高まることもあるためか、環境問題にも関心が高まるようです。

───では、環境行動はいかがでしょうか。

中平 “やるべきこと”という意識は高まりつつありますが、行動面は一部の人にとどまっています。「そういうの(環境への取り組み)って、いいよね」と思っていても、生活の中でできることがわからないというのが現状だと感じています。我々の調査でも「具体的に何をすればいいのか分からない」や「決めてくれれば、やりたい」という意見も多くあがりました。

───おっしゃるとおり、意識と行動には乖離があると思っていますが、例えば環境意識の高い今の10代が30代になったときにはどうなると思われますか。

中平 そのまま意識を高く、そして行動にもつなげてほしいという気持ちはあります。そのためには、いかに“毎日の生活の中での当たり前”にできるかが重要です。
 大学生から社会人になり、新しい生活や仕事が始まると時間的・精神的な余裕が持ちにくくなるため、改めて環境問題や生活についてじっくり考える余裕が持ちにくくなると思います。新入社員や入社希望者と話すと、社会にいいことをしたいという気持ちを持つ人は増えているため、“新しい当たり前”を一緒に考えられると良いなと思います。周辺はごみ拾いをする社員も増えていますし、コロナ禍でペーパーレスも当たり前になってきました。「脱炭素のために」と構えると距離があるものになってしまいますので、毎日の暮らしの中でできること、実はつながっていることを発見し、無理なく取り入れられるものにしていくことがポイントになると思います。

───時間的余裕だけではなく、金銭的な余裕が環境意識や行動に影響することはありますか。

中平 実は、それはあまり影響がないというのが意外な発見でした。私たちが行った調査で「誰が環境行動をやるべきか」という設問に「お金に余裕のある人」という選択肢を入れてみたのですが、それは3割にとどまり、「すべての生活者がやるべきだ」と答える人が約8割と非常に多い結果となり、意識としては皆がやるべきだ、と思っている人が多いようです(図表5)。一部のプレミアム価格が必要な商品やサービスの場合には、年収というファクターが影響するかもしれませんが「やるべきか」「やらなくていいか」ということでいうと、属性の影響は無いということです。

───では、問題は「意識はあるけれども、そもそも具体的に何をすればいいかがわからない」ということですね。

中平 はい。なかなか“脱炭素のために”と思って行動することは少ないかもしれませんが、「無駄をなくす」という意識から、リサイクル、節電・節水をしている人は多いですよね。毎日、ちょっと気をつけることがCO2の削減にもつながっていること、皆が続けるとどのくらいの削減になりそうかをつなげてあげることが大事だと思います。「だったら続けよう」という人が増えるかもしれない。もう少し工夫してみよう、という人も出てくるかもしれません。まず何をすれば良いのか、できることから提案を続けることが重要だと思います。その上で、どのくらい貢献することになるのか、数値や影響度がわかれば実感しやすいため、「続けよう」と思う人も増えていくかもしれません。例えばエコバッグ利用は、どの程度の貢献度かはわからないけれど、「国や政府に言われているので自分も従わなきゃ」と。その結果、レジ袋を使わなくてもいいかとも思う。それが当たり前になって、1年単位で考えると相当量のレジ袋を節約してそうですよね。具体的に数字でわかると、ちょっと楽しくなるかもしれません。このように、「言われてみればこれ、いらなかったよね」と思うものは、まだまだありそうですよね(図表6)。

環境行動促進に向けた価値観の変革

───情報提供についてはどのような方法が有効だと思われますか。

中平 調査データ上からも言えますが、メディアの力は偉大だなと改めて思っています。テレビで言われていることやニュースとして出てきたことは信頼できる情報と思っている人は多いです。インターネットの情報に問題があるわけではありませんが、「やらなきゃいけない」「やったほうがいい」という情報はマスメディアのほうが現状ではいまだ強いのかなと思います。若年層はもう少しリベラルかもしれませんが(図表7)。

───私自身も脱炭素に関わる情報は信頼できるかがカギだと思います。マスメディアの力はわかるのですが、デジタルはどのように使えばよいのでしょうか。

中平 両者の役割の違いをうまく活かすことが必要だと思います。最初のインプットはマスメディアだとしても、具体的に何をやればいいのか、自分の生活ではCO2をどの程度出しているかなどはデジタルメディアの方が相性は良いと思います。
 また、「いいね!」された内容をシェアして環境行動を発信できる、それが誰かの行動トリガーになるということもデジタルの特徴です。若年層には「自分が環境に配慮した生活を送っていることを周囲にちょっとアピれる」ことも行動のトリガーになっていますし、友人間で好循環がうまくできるとさらに広がっていくと思います。行動の発端はマスメディアでの盛り上がりであり、受け皿や拡散としてインターネットがあると言えるでしょう。

───若者はテレビを見ないとよく言われますが、マスメディアの影響は受けるのでしょうか。

中平 よく、トリプルスクリーンと言われますが、テレビも「ながら見」などしていますね。ある大学生に「信頼できる広告って何?」と聞いたときに、「テレビでも、SNSやYouTubeでも見るCM」と答えたという話も聞きますので、それなりの影響は受けていると思います。最近はテレビ局がYouTubeにニュースコンテンツをアップしていたりしますし、まだ多くの場合はマスメディアの信頼性は機能しているといえるのではないでしょうか。ただし、ある程度信頼はするものの疑いがあればネットで裏取りするということでしょうか。

───マスメディアが気づきの手段の一つだということですね。レジ袋有料化のような行動の起爆剤は今後はどうあるべきだと思いますか。

中平 京都議定書に端を発した「チーム・マイナス6%」プロジェクトでは、クールビズという新しいスタイルを提案し、今では「ノーネクタイ」というスタイルは定着していますよね。単一商品の削減提案では限界もあると思いますので、今の時代にも、あのような社会の皆さんが協力・共感する新しいスタイルやムーブメントが起きたらいいなと思います。
 環境に対する専門性が高い方と議論していると、「そんな猶予はないから、直接的な行動を提案すべき」とか、脱炭素化は不可逆的な流れなので、「これが大事だよ、と体感できる場所を早急に作るべき」という話もよく聞きます。しかし生活者の立場で考えてみると、何のためにやるのかとか、自分へのメリットがしっくりこないと、お金や労力もかかるので、これまでの暮らし方をなかなか変えてくれません。EVや再生エネルギーなど知識として知っていても、すぐに手が伸びない、変われないのも現状だと思います。
 生活者にどのように感じられるかが重要だという指摘もあります。無理な節約や我慢を強いるものと感じられてしまうと共感されない。イヤイヤやるものではなく、これまでの常識とは違うが取り入れてみたくなるようなもの、「発想が転換されるようなもの」がたくさん出てきてほしいと思います。クールビズのような共感を獲得する運動もあれば、レジ袋有料化のような政府主導のもの、コロナ禍で起こった暮らし方のシフトなど、ある種の強制力が働いて起こったものもありますが、新しい価値観で発想を転換して考えることが重要だと思います。

───価値観の転換には何が必要と思われますか。

中平 やはり生活者の視点で、少し視野を広げて考えるということかなと思います。大手メーカーでは自社製品やサービス、自社活動で排出するCO2は算出されていたり、既に工場などで排出するCO2の削減には取り組まれています。では、その製品を使う環境ではどうか。お店に買いに行くまでにできることはないか。生活者サイドに立ったときに、できることはまだまだあるかもしれません。特に、脱炭素のためとは銘打っていないのですが、あるスーパーやコンビニでは空のペットボトルを持っていくとポイントが貯まる取り組みがあります。コンビニは手ぶらで買い物に行く場ではなく、リサイクルのために行く場にもする、という転換です。生活者からすると捨てるよりはお得になりますし、おそらくペットボトル5本で1ポイントでも10本で1ポイントでも、反応する人数は変わらないと思います。コンビニ側としては来店動機にもつながりますし、生活者側も「どうせ捨てるんだったらコンビニに持っていこう、それでポイントももらえたら嬉しいよね」といったハッピーサイクルができるといいなと思います。このような環境行動を広めていくには、一部の高感度な人だけではなく、当たり前のものとして定着させる必要があると思います。

カーボンニュートラル社会と生活者の距離を埋めるものは何か

───ところで本号は、カーボンニュートラルと生活者の距離をテーマの一つにしていますが「距離」についてどのように感じていますか。

中平 ちょっと、まだ遠い感じがしますよね。言われれば知っているし、リサイクルとかは協力しているけれども、自分の行動が紐づいている感じがしていない、というのが大半の生活者の印象だと思います。

───遠いですよね。カーボンニュートラル社会の実現のためには、企業は生活者との協働が求められるわけですが、その一方、生活者は脱炭素、カーボンニュートラル社会の実現は企業の役割だという。企業はどのように生活者と向き合っていけばよろしいのでしょうか。

中平 難しい問題ですね。企業が近づこうとしても、商品やサービス単体での削減を呼びかけるだけは難しいでしょう。より生活者側の立場に立った提案や呼びかけが重要になると思います。例えば、洗剤という商品を作るのに排出されるCO2量は算出されていますが、「洗濯」という行為全体でのCO2排出量は計算されていませんし、洗濯機の性能など自宅の環境によっても変わるかもしれません。つまり、今の生活に置き換えてみると、まだ企業と生活者がうまく握手ができていないため、考える余地があるような気がしています。欧州の事例では寒い地域は汚れが落ちないから温水で洗濯する風習があるのですが、現代の洗剤の性能からすると、冷水でもちゃんと汚れが落ちる。そこに目をつけたメーカーは、冷水での洗濯を提案、それによるCO2の削減にも協力を呼び掛けて好評を得たようです。必ずしも正確な削減量の提案ではなく、知らず知らずやってしまうことへの“気づき”を与え、製品に関する新しい使い方の提案などでも良いかもしれません。
 インフラはインフラ、商品は商品という目線だけで考えると限界があって、生活者がそれを使ったらどうハッピーなんだろうと追求するともう少し生活者と握手ができるのではないでしょうか。実は日本の主婦は自然とそういうことを考えていたのではないかと思います。生活者の意見を聞いて生活スタイルを企業と共創するのもいいのかなと思います。

───生活者との共創について、具体的な事例があれば教えてください。

中平 弊社の取り組みですが、三井物産と共創型プラットフォーム「Earth hacks」を展開しています。高感度の生活者に集まってもらい、行動と具体的なCO2削減量の基準を提供しようと考えています。その結果について、生活者目線で訴求したときにお客様がどう反応するのかを一緒に実験しましょうと他の企業様にも呼びかけています(図表8)。

IRやCSRの部門の方と話していると、確かにビジネスシーンはカーボンニュートラル社会の実現に向かっていて課題が高度化しています。一方、生活者はまだそのレベルではない。このギャップを埋めることを悩みがちなのですが、ギャップがあるのだったら埋め方を楽しくすればいいのではないかと思っています。たとえば、都市ガスの業界でいうと「メタネーション」(CO2と水素から都市ガスの主成分である「メタン」を合成する技術。使用されたCO2を回収して再利用するため脱炭素化を目指す技術として注目されている)の技術開発があります。普段生活していると関係ない話ですが、実証実験の場を見ると、「何をやっているんだろう、これは」とワクワクする人もいるのではないでしょうか。壮大な装置や化学反応などは子どもに還ったような興味が湧きますよね。“温暖化の元凶であるCO2が再利用される”という点も、イノベーティブな発想に感じます。企業のPR材料と捉えると共感は得られにくいかもしれませんが、楽しく学ぼうという姿勢や方法を検討するなど、興味を持ってもらう方法を考えると手段はたくさんあると思います。
 ビジネスシーンからすると稚拙に感じられるかもしれないですが、少しでも興味があれば詳しく調べる生活者もいますし、それを発信する人もいる。ショッピングモールなどで行われる、子供も参加できるワークショップも賑わっています。企業努力をビジネスの側だけで取り組んでいるとすごく殺伐としますので、生活者と一緒に考える、一緒に楽しむという視点も重要かもしれません。

環境行動促進のカギを握る「楽しさ」の創出

───生活者は嫌なことはやらない傾向にあるので、「楽しさ」は重要ですね。修行みたいなものは受けいれられないですよね。

中平 脱炭素やSDGsに限らず、今の生活者は何かと忙しい人が多いので、手間を避ける傾向にあります。情報も検索すれば手軽なものから詳細なものまで出てくる時代ですので、「正しく勉強してもらってから行動してもらう」ではなくて、まずは興味を持ってもらうための“入口を作ること”が大事。その際に、「こんな生活をしていたほうが楽しいよね」と思ってもらう文脈を作ることが大切かと思います。オトクなどの金銭的なメリットも有効ですが、継続性を考えると、共感してもらえる新しい価値観や生活提案が望ましいと考えます。

───日本全体は高齢化社会なので、環境意識の高い60~70代のカーボンニュートラル社会実現における役割はどう考えればよいでしょうか。

中平 人口も多く、環境への意識は非常に高いこの世代が、どう新しい生活に転換できるかも一つの鍵だと思います。トレンドは若年層から起きがちですが、新しい価値観やサービス(例えば、C to Cやシェア、リペアなど)を使うシニアの方も増えていますし、EVやリフォーム時の再エネの導入など家庭内で検討するものや、リサイクルや分別など地域みんなで考えていくものに対して、積極的な役割を果たしてもらえたらと思います。

───新たな価値観づくりは、脱炭素に限らず、今の社会において、新たなライフスタイルのカギになりそうですね。

中平 電話会議やリモートワークは、日本では絶対はやらないと言っていた人もいましたが、コロナ禍の2年間でまったく違う景色になりました。ですから、“絶対にできないこと”はないとも思います。カギとなるのはキッカケをどう作れるか。ある種の強制力も必要ですが、共感で広がって欲しいですね。”いつか”ではなくて、本当に“今からやらなきゃいけない!”と国際機関は思っていますが、その危機感を生活者にどう伝えて巻き込んでいけるか。ただ、怖がらせるだけではなくて、「こんなことをやれば、皆がハッピーになる」「これならできる」「言われてみれば、こっちの方がいいじゃん!」という話が多く出てきたらと思います。
 国連広報センターは「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディア有志108社とともに、メディアの力を通じて気候変動対策のアクションを呼び掛けるキャンペーン「1.5℃の約束 - いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を立ち上げました(図表9)。国連とメディアとのグローバルな連携の枠組み「SDGメディア・コンパクト」に加盟しているメディアが、国レベルで共同キャンペーンを展開するのは世界で初めてのことだそうです。世の中の機運を高める一つのきっかけにつながればよいと思います。

企業と生活者が握手をして環境行動を進めるには

───環境運動家のグレタ・トゥンベリさんのようなシンボル的な人が日本を引っ張るということはありますでしょうか

中平 あると思いますね。でも特殊な人ではなく、皆の代表として見えてほしいな、と思っています。
TikTokやInstagramでの発信がかなりの影響力を持つ世の中になっていますし、同調しようと共感する人も多いので積極的に情報発信するトレンドセッター、インフルエンサーは絶対に必要だと思います。ただ、あまり過激な内容になりすぎると、距離を置きたくなる人も増えるのでいろいろな人が発信している状況を作れたらいいと思います。今の若者はどちらかというとその場の空気にうまく乗ろうとしてくれる人も多いので、海外のようなセンセーショナルなものだけでなく、ウィットに富んだものやアイディアのある発信の方が同調されやすいと思います。

───今日お話しを聞いてみて、環境行動はカーボンニュートラル社会の実現というゴールを示すのではなく、「楽しさ」を示すことがカギなのではと強く感じました。最後にこの大きな課題に取り組む人たちに一言、お願いいたします。

中平 改めてですが、必ずしも「脱炭素」から入るものだけではなく、自分の興味や生活の中でできることから始めること・考えてみることが大切だと思います。そのきっかけを企業が作ると生活者もうまく歩みよれるのではないでしょうか。難しい発信ではなく、「楽しさ」を上手に作ることで生活者のモチベーションを高め、意識が行動にまでつながっていくといいですよね。
 企業にとっては、カーボンニュートラル社会の実現は、高いハードルであることは事実です。それぞれがCO2削減の問題を改善しつつ、さらに生活者をどう巻きこむのかを考えているはずです。今の生活をベースに、無理なく楽しくなる進化・変化を生活者に促すことは、「言うは易く行うは難し」という領域かもしれませんが、引き続き研究し、皆さんの意見を聞いていこうと思います。

───本日はありがとうございました。

《参照サイト》
博報堂「生活者の脱炭素意識&アクション調査」
【①意識篇】

https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/93767/

【②アクション篇】

https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/93959/

博報堂「第二回 生活者の脱炭素意識&アクション調査」

https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/98455/

「Earth hacks」 
知っているとちょっと選びたくなる新しい選択肢として脱炭素商品や行動を支援するポータルサイト。

https://earthhacks.jp/

Interviewer:中塚 千恵 本誌編集委員

中平 充(なかひら みつる)
株式会社博報堂 第二ブランド
トランスフォーメーションマーケティング局 部長
マーケティングプラニングディレクター

2004年総合広告会社に入社し、営業職や統合プラニング職を経て、2013年博報堂入社。トイレタリー、自動車、情報サービス、食品など様々な企業のブランド戦略、マーケティング戦略、コミュニケーション戦略を担当。広告領域にとどまらず、パーパス開発、商品・事業開発、カスタマージャーニー、UI設計など、生活者と企業・ブランドが関わる幅広い業務にも携わり、企業のマーケティングを支援。昨年度より、「博報堂SDGsプロジェクト」に参画し、脱炭素分科会を設立。生活者の意識や企業の脱炭素アクションを研究・支援中。