第5回
東京オリンピック直前に
卓球代表選手に伝えた3つのこと

 早いもので、2020東京オリンピック・パラリンピックから1年になります。多くの困難を乗り越え、大会の開催にこぎ着け、無事に運営していただきました全ての皆様に、心からの敬意を表し、感謝いたします。
 私は2014年、第17代日本卓球協会会長に就任し、リオ、東京と2度のオリンピックを経験しました。
 東京オリンピックは、コロナの影響で1年延期となり、その間、試合での実戦経験がほとんどないままでオリンピックに突入するという大変困難な状況でした。そこで私は、オリンピックで戦うにあたり、代表選手にシンプルにかつ最も大事なことを何か伝えたいと思い、よく考えて次の3つのことを一人ひとりに丁寧に伝えました。

1.日頃のルーティンを大事にして、リズム良く戦おう!本番では、いろいろなことが起こると思いますが、どんな状況の中にあっても、日頃のルーティンを大切にして、リズム良く戦えば必ず日頃の成果が出てくると思います。
 一つ目は、リズム良く!です。

2良いイメージだけを思い描いて戦おう!これまで皆さんは、最大限の努力を重ねてきました。試合に集中し、自分を信じて夢を叶えるために、良いイメージだけを思い描いて戦っていただきたいと思います。
 二つ目は、良いイメージ!です。

3.最も大事なこと・・・感謝の気持ちを持って戦おう!世の中は今、コロナパンデミックや大規模な自然災害で多くの人が苦しんでいます。そうした中で、こうやって試合ができることに感謝し、それもオリンピックという最高の舞台で試合ができることに感謝し、皆さんを支えてくれている人たちに心から感謝して戦っていただきたいと思います。そして、自分の大事な人のために、大事な人が喜ぶ顔を思い浮かべて、思い切り力を出していい試合をしてもらいたいと思います。
 三つ目は、感謝の心!です。

 以上、リズム良く、良いイメージで、感謝の心を持って戦おうということが、私からのメッセージです。
 超一流のアスリートに、戦いにあたって何か伝えるというのは、大変おこがましいこととは思いましたが、魔物が棲むというオリンピックでは、いざとなったらいろいろな迷いが出てくると聞いていましたので、これだけは頭に入れておいてほしいという思いでした。選手一人ひとり、実に素直に私の話に耳を傾けてくれて、静かに聴いてくれました。
 そして、東京オリンピック卓球では、混合ダブルスの金メダル、女子団体の銀メダル、女子シングルスの銅メダル、男子団体の銅メダルと出場選手全員がメダルを獲得するという素晴らしい成績でありました。パラリンピックにおいても、女子シングルスの21年ぶりの銅メダル獲得は、パラ卓球にとって大変画期的なことでした。これほど選手が本番で活躍できたことは、選手の日頃の研鑽、監督・コーチ・スタッフの指導・サポート、卓球ファンの皆様の熱い応援があってのことだと思います。
 そして、振り返って私が何より感じましたのは、選手一人ひとりが誰に対してでも素直に耳を傾けるという聴く力の高さであり、選手一人ひとりの人間力の高さでありました。この人間力の高さが勝利の根本にあったように思います。
 あらためて東京オリンピック・パラリンピックに熱い応援を送っていただきました皆様に心から感謝いたします。

公益社団法人 日本マーケティング協会
会長 藤重貞慶