寄稿


生活者が取り組み始めた食品ロス問題

Text 井出 留美氏
株式会社office 3.11 
代表取締役

 筆者が食品ロス問題に取り組み始めたきっかけは、2008年、広報室長として勤めていたグローバル食品企業でフードバンクへの寄付を始めたことだった。その後、誕生日に発生した東日本大震災で食料廃棄を目の当たりにし、2011年に独立し、3年間フードバンクの広報責任者を務め、以来、食品ロスの啓発活動を続けてきた。2019年10月に施行された食品ロス削減推進法は、食品ロス問題に影響を及ぼした。この法律は、筆者と国会議員が2016年に講演巡業したことがきっかけで、2019年5月に成立した。

食品ロス問題解決に向けた生活者の意識と行動

 恵方巻の廃棄は、この法律で改善が見られた。2019年の法律施行前の節分には、閉店間際、あるデパ地下で半額値引きされた恵方巻が272本売れ残っていた。2020年、売れ残り本数は減り、完売店舗も増えた。首都圏で食品リサイクルを行う日本フードエコロジーセンターの恵方巻売れ残り搬入量の推移を見ると、2019~2021年にかけて右肩下がりに減り、2022年には前年より増えたものの、2019年よりは減少した(図表1)。

 恵方巻に関しては事業者の姿勢が変わったことが大きい。では生活者はどう変わっただろうか。
 ハウス食品グループ本社が2019年7月、自社会員サイト登録者6,357名対象に、食品ロス調査を実施した。家庭での食品ロスが1か月に1~2回発生する割合は70.4%だった。それが法律施行後の2021年9月、7,576名対象の調査では59.1%と、法律施行前に比べて10%以上減る結果となった。家庭で食品を捨てることが「まったくない」と答えた人は、2019年の6.7%から2021年には18.4%と、3倍近くに増えた(図表2)。

食品ロス問題解決の上でネックになること
生活者の鮮度志向と「他人事」意識

 筆者は「買い物の時、商品棚の奥から賞味期限が長く残っているものを取るかどうか」のアンケートを約3,000名に行った。そのうち88%が「奥から取る」と答えた。奥から取ると商品棚の手前が売れ残り、食品ロスになってしまう。生活者は「店が処分するから問題ない」と思っている。が、コンビニやスーパーの売れ残り食品は、多くの自治体で「事業系一般廃棄物」に区分され、家庭ごみと一緒に焼却処分される。この処理コストは自治体によって異なるが、東京都世田谷区の場合、1kgあたり57円(2022年4月世田谷区発表資料)。できる限り新しいものを求め、商品棚の奥からひっぱり出して買う生活者の行為により、手前が売れ残ってしまうと、結局は生活者が納めた税金を費やし、食品が焼却処分されるのだ。生活者は、商品棚の手前が売れ残っても自分には関係ないと思っている。賞味期限はおいしさの目安に過ぎないのに(図表3)、同じ値段を払うのだからできる限り奥から新しいものを取ろうとする。

80%が水分の生ごみを焼却しCO2を排出する日本温室効果ガス排出量は世界第5位

 食品事業者から排出される食品廃棄物には2種類ある。1つが製造者(食品メーカー)から出されるもので、産業廃棄物に区分される。もう1つが小売店(コンビニ、スーパー)や飲食店から出されるもので、多くの自治体で事業系一般廃棄物に区分され、前述の通り、家庭ごみと共に焼却処分される。食品ごみ(生ごみ)は、その重量の80%以上が水分で燃えにくい。その生ごみを、膨大なエネルギーとコストを費やして焼却している。これを減らせば、市区町村の財源は食べ物を燃やすために使われるのではなく、福祉や医療、教育、雇用などに充てることができる。一般廃棄物の処理コストは年間2兆1,290億円にも膨らんでいる(2022年3月29日、環境省発表)。

生活者の「便利さ」重視とそれを満たすコンビニ

 食品業界には欠品(品切れ)を許さないルールがあり、必要以上にメーカーが作らざるを得ない構図になっている。全国に5万6,000店舗以上あるコンビニ。2020年9月、公正取引委員会が発表したデータによれば、一店舗が年間廃棄している食品の額は468万円(中間値)。筆者の取材では、一店舗で年間1,000万円以上の食品を廃棄している店舗もあった。民間給与所得者の平均年収は433万円(国税庁、2020年度)。平均年収以上となる食料品をコンビニ一店舗で捨てている。なぜこれで経営が成り立つのだろう。背景には大手コンビニ特有の「コンビニ会計」がある。損益計算書上は万引き分や売れ残り分を原価に含めないやり方だ。実際には加盟店側が80%以上を負担しているものの、会計上は存在しない。だから粗利が(見かけ上)増えるのだ。その利益は本部:加盟店=6:4など、一定の比率で本部と加盟店が分け合っている。見切り販売するより廃棄した方が本部は儲かる構造になっている。だが加盟店側は見切りしてでも売り切った方が取り分は大きい。取材で大手コンビニ加盟店11店舗分の損益計算書を入手し、税理士に計算してもらったところ、見切りしない一年間と比べて、見切りした一年間の方が、年間で400万円も利益が多くなった。

食品ロスとCO2削減に関わる生活者の意識と行動
食品ロスは世界第3位の温室効果ガスの排出源

 食品ロスは生活者が思っているより環境負荷が大きい。仮に世界中の食品ロスが1つの国から出ていると仮定すると、温室効果ガス排出量が第1位の中国、第2位の米国に次いで、食品ロスは第3位となる(図表4)。グラフにはないが、日本は今まで述べてきた内容から、第5位の多さだ。

 世界の温室効果ガスの排出量に占める飛行機の排出量の割合は1〜2%に過ぎないが、食品ロスの排出量は8〜10%を占める(図表5)。

食品ロス削減は100位中3位の地球温暖化対策

 世界の専門家や研究者200名近くが参画し、地球温暖化を逆転させる100の方法をまとめて1〜100位までランク付けした「ドローダウン・プロジェクト」によれば、第3位にランクインしたのが「食品ロス削減」である。世界中の生活者が全員参加できる方法としては第1位と言っても過言ではない。電気自動車は26位、飛行機の燃費向上は43位。二酸化炭素削減というと電気自動車が頭に浮かぶ生活者も多いだろう。2021年秋のCOP26 では電気自動車などが主要議題として挙げられていた。食品ロス削減への優先度を世界で高めるべきではないだろうか(図表6)。

 英国政府が2000年に立ち上げた非営利組織WRAPは、「食品ロス削減に1ドル投資すれば、さまざまな面で14ドルのリターン(利益)がある」と発表している。それくらい、食品ロス削減は、温室効果ガスの削減を含め、効果が期待できることなのだ。

食品ロスとサーキュラーエコノミー

 これまでの経済モデルは「作って売って消費して捨てる」という、一方向のリニアエコノミーだった(図表7左端)。これからの経済モデルは、これまで捨てていたものも資源として使い尽くす、サーキュラーエコノミー(循環経済、図表7右端)を目指すべきである。
 これまで捨てていたものをリサイクルする、リユース(再利用)する、リペア(修理)するなど、資源として活用していく。これまで捨てられていたものを生かすアップサイクル(例、摘果リンゴをシードルやリンゴ煎餅にする)、生ごみを発酵させての活用、賞味期限接近食品を廃棄せずに販売する、など。言うまでもないが、最も大切なのは「水道の蛇口をしめること」(Reduce:廃棄物の発生抑制)だ。
 国連環境計画(UNEP)と英WRAPの報告書「食品廃棄物指標報告2021」によれば、世界の食品ロスが毎年9億3,100万トン。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、世界で排出される人為的な温室効果ガスの21~37%は食料システムからだと推定している。 2021年3月に『Nature』誌に掲載された研究でも、温室効果ガスの3分の1は食料システムが排出源だと推定されている。
 二酸化炭素などの温室効果ガス排出で、何がいけないのか実感できないかもしれない。でも温室効果ガスにより気温が上昇し、気候危機や異常気象、気象災害が起きている。2021年には「100年に1度」「1000年に1度」レベルの気象災害が世界中で発生した。2022年6月の日本は異常な暑さだった。

今日から生活者にできること

 生活者としてできる食品ロス削減は、たとえば次のようなことである。

・買い物前に冷蔵庫や食品庫の在庫をチェックする
・あるもので献立を考える
・ないものだけを買い物リストにする
・空腹時の買い物は無駄買い金額が64%増えるので空腹時を避ける
・過剰に買いすぎない
・常温保存できる缶詰などをローリングストック法*で備蓄する
・すぐ食べるなら店頭では手前の商品から取る
・買い物は投票。未来に残したいお店や食品を選んで買う
・賞味期限はおいしさのめやす。過ぎてもすぐ捨てない
・「もう1個買うとお得」に釣られない
・丸ごと使いきれない野菜は1/2個、1/4個、カット野菜を活用する
・冷蔵庫は入れる量を全体の70%程度におさめる
 ほか

 今日から今すぐできることを始めたい。
 1人が100をやるより、100人が1ずつやる方が持続可能だ。

*ローリングストック法
普段から、少し多めに常温保存できる食品を買っておき、使ったら使った分だけ新しく買い足すことで、常に一定量の食料を家に備蓄し、食料在庫を循環させる方法。

井出 留美(いで るみ)
株式会社office 3.11 代表取締役

ライオン(株)、JICA海外協力隊、日本ケロッグ等を経て独立。食品ロス削減推進法成立のきっかけを作った。著書に『食べものが足りない!』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』(第68回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)他。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
株式会社office 3.11:http://www.office311.jp/
Twitter:https://twitter.com/rumiide

《井出 留美氏の著作》
『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』
(あかね書房)

★全国学校図書館協議会選定図書
★第68回青少年読書感想文全国コンクール課題図書

捨てないパン屋・田村陽至氏の人と思想を紹介。田村氏のモンゴル滞在の経験や、ヨーロッパへのパン修行の旅など、美しい自然風景と感動的なエピソードを交えながら、捨てないパン屋になるまでの葛藤を通じて、自然への深い愛情と、食品ロスなき未来への希望を描いたノンフィクション。

★その他の著作

『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』 (幻冬舎)
『「食品ロス」をなくしたら1か月5,000円の得!』(マガジンハウス)
『捨てられる食べものたち 食品ロス問題がわかる本 』(旬報社)
『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)
『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』((PHP研究所)
『SDGs時代の食べ方 ——世界が飢えるのはなぜ?』(筑摩書房)
『食べものが足りない! 食料危機問題がわかる本』(旬報社)