「ブランド人格」
「ビジネスフレームワークの教科書」

『ファンを集められる会社だけが
 知っている「ブランド人格」』
鬼木 美和 著 発売:時事通信社

 何となく「社風」が好きで、活動を応援したくなる企業がある一方で、どんなに有名で業績が素晴らしくても、あまり好きになれない企業があるのは、なぜか。本書は、人が企業に対して抱く、この「何となく好き」の背景に「ブランド人格」があるとの視点から論考を進めた1冊だ。
 たしかに企業トラブルが発生した際にも、生活者やメディアからあまり叩かれず、むしろ応援されてしまう企業がある一方、ここぞとばかりに糾弾されてしまう企業が存在する。広報の初動の善し悪しだけでなく、「人格」も影響していると考えると納得がいく。企業だけでなく、万年最下位の弱小プロスポーツチームを応援するファン心理なども、もしかしたら筆者の言うところのブランド人格が影響しているのかもしれない。
 本書が秀逸なのは、そんな「ブランド人格論」を提唱する理論の書にとどまらない点にある。捉えどころのないブランド人格をもとにしたブランディングの実践方法を、再現性のある取り組みとしてわかりやすく解説しているからだ。事例も多く、さらにブランド人格を導き出すフレームワークも紹介されているので、ペンを片手にワークに取り組みながら読み進めることをお勧めしたい。
 「ブランディングって、やったところで成果が見えない…」という、よくある企業の課題に対しても、成果が測れないのではなく、そもそも目的が不明確だったり、目的を目標化していないために、得るべき成果自体がわかっていないことが理由である、と鋭い指摘をしており、深く共感した。本書ではブランディングで生み出される企業にとっての16のチャンスをわかりやすくまとめており、16の項目の中でも、自社にとっては何が最も優先順位が高いのかを考えてみるだけでもブランディングの目的が明確になりそうだ。
 筆者である鬼木氏との出会いは今から10年ほど前にさかのぼる。広告会社に在籍しながらも、広告という手段だけに依らないブランディングの方法論を提案する姿に、ブランドという巨大な存在に真摯に向き合う実務家としての姿勢を感じ、感銘を受けたことを強く記憶している。本書を読むと、そんな筆者の真摯な人格も感じられる。1,000社以上の企業の社是社訓・理念・社史を読み、”企業理念オタク”を自称する同氏のブランドに対する敬意と愛情がにじみ出ており、独特の読後感を与えてくれる1冊である。

Recommended by
株式会社宣伝会議 取締役 兼 月刊『宣伝会議』
編集長 谷口 優


『ビジネスフレームワークの教科書
 アイデア創出・市場分析・企画提案・改善の手法55』
安岡 寛道、富樫 佳織、伊藤 智久、小片 隆久 著 SBクリエイティブ

 本書はアイデア創出・市場分析・企画提案・改善に関する55のビジネス・フレームワークをまとめたものであるが、特徴を一言でいえば「とにかく分かりやすい」。全体的なデザインもさることながら、ビジネスの生成過程における一連の流れ(アイデアをつくる⇒ニーズを見つける⇒分析・検証する⇒企画する⇒プレゼンする)に沿ってフレームワークが整理されているため、読者の課題に合致したツールをすぐに導くことができる。この利点に加えて、以下の特徴において本書は一線を画している。

‟教科書”として活用できるように、各ページの最初にフレームワークの起源や概要が記されている。
フレームワークを知識として理解するだけに留まらず、実務上の使い方や注意点、ポイントが詳説されている。
参考文献が明記されており、興味のあるフレームワークについて読者が探求できるよう配慮されている。
「組み合わせて使えるフレームワーク」が記載されており、個々のフレームワークの説明を超えて、異なるフレームワーク同士を関連づけて理解できる工夫が施されている。

 ビジネス上でよく見かけるフレームワークだが、実際によく分からないという時やどのような時に使うべきか分からないという時…多くの人が思わずインターネットに頼りがちだが、たどり着いたサイトは表面上の解説に留まっているケースが多く、往々にして分かった気になってしまいがちだ。そうした時に本書を紐解けばフレームワークの概要を理解したうえで、実務でフレームワークを活用できるレベルにまで飛躍させることができる。まさに多くのビジネスパーソンが求めていた書籍である。
 こうした書籍を執筆できた背景には著者らが実務家出身であることが大きいかもしれない。新入社員から中堅社員までの幅広いビジネスパーソン、あるいは学生にビジネス系の学問を教えている教員の皆様にも有用な一書である。

Recommended by
公益社団法人 日本マーケティング協会
部長 河野 安彦