特集


SDGs消費への背景意識


ヨーロッパの若者・ミドル世代が求める持続可能な未来への取り組み

by 井上 史郎氏( デザイン博士)
オランダ国立南大学講師
Adjective Verb 代表

 持続可能な開発目標、いわゆるSDGsが国連で採択されてから8年の月日が経った。2023年の現在は2015年から2030年に向けた行動計画のほぼ中間に位置することになる。
 全世界がパンデミックや戦争、AIの台頭などさまざまな不測の事態により混沌を極める中、世界の市民が共通した開発目標を持って取り組まなければならないこの「アジェンダ」はヨーロッパではどのように受け止められているのか。
 筆者は普段オランダの地方都市マーストリヒトを拠点に、ヨーロッパの学術機関に従事したり企業とやりとりしている。普段の業務や日常会話の中で社会問題や環境問題等に関する話題がよく取り上げられる一方で、取り立ててSDGsに関係する情報に触れる機会は少ない。街でSDGsのロゴマークを目にする機会も少なく、会話の中でSDGsに触れる機会もほとんどない。筆者の日常の中ではヨーロッパ市民のSDGsに対する意識がなかなか見えてこない。ヨーロッパと一口に言っても、経済の規模・状況や抱えている社会問題も国や地域によって異なるが、ヨーロッパの市民はSDGsという行動計画と消費行動に対してどのような「意識」を持っているのだろうか。本記事ではヨーロッパ在住の主に20〜40代50人(EU国籍の有無は問わず、また日本国籍保持者でない者)を対象に、筆者が独自に行ったアンケート結果も交えながら考察する。

ヨーロッパの20〜40代のSDGsへの意識は高い

 ヨーロッパ在住の若年層・ミドル世代はSDGsに対する意識が比較的高そうだ。「あなたは普段どれほどSDGsを意識するか」という問いに対して、74%が「常に意識している」「よく意識する」または「時々意識する」と回答した。また、具体的にどのような場面でSDGsを意識するのかという問いに対して34%が「仕事関係」で意識するとの回答が最も多かった。次いで、食事や買い物など「日常生活」の中で意識すると回答したのは30%だった。逆に、普段意識する機会はないと回答したのは8%に留まった。普段からSDGsに対する意識は比較的高いことが伺える。採択から8年が経ちSDGsがキャンペーンとして目に飛び込んでくる機会は少ないが、社会や環境問題に対しての意識は一定のレベルで彼らの中に根付いていると言えるのかもしれない。

より根本的な問題への意識

 ヨーロッパ在住の若年層・ミドル世代は消費の文脈において、SDGsの課題の中でもより人間生活の根幹に関わる問題に対し意識が向いている。アンケートの中で、「ヨーロッパの消費者はSDGsで扱われる問題の中でも持続可能な社会のためにどのようなことに焦点を当てるべきか」という問いに対して、諸課題の中でも経済成長的な側面よりもまず人間生活の基盤を支え、かつ、より他の課題へ影響を及ぼす根本的な問題(例えば人権平等・健康・気候変動・安全な水の確保等)に焦点を当てるべきという回答が目立った。長期的に持続可能な発展に向けて(回答者のコメントを借りれば)「健康な人間と健康な惑星のための基盤」の確保が先んじて重要であるということである。ヨーロッパの消費者の中に、経済成長の重要性は認めつつも、より根本的な問題への取り組みなくして長期的に持続可能な発展は望めないという意識があり、このような意識は消費行動の動機の一要因になっているのかもしれない。
 また、他にも目立ったのが教育の重要性への意識だ。SDGsで取り上げられる諸問題はさまざまなレベルで関連し合う。気候変動への取り組みと多様性を受け入れる社会の実現も繋がっているし、食の安全と平和の実現も繋がっている。教育はこれら複雑に絡み合う問題の構造の理解を深め、消費者としてより責任ある消費行動を促し、SDGsのさまざまな領域に貢献する基となるという意見が上がった。教育は持続可能な未来を見据えた消費活動を考える際にその根幹として重要な役割を果たすという認識が見てとれる。

過激に声をあげる若者たち

 ヨーロッパの若者の、企業やグローバル経済が負う責任や政府の施策に対する眼差しは厳しい。アンケートでも大企業や産業の過剰生産・大量消費への懸念、企業活動の透明性を求める声や、過激なものでは大企業へのボイコットを求める意見も上がった。ヨーロッパは伝統的にも文化的にも政府や企業に対しての異議申し立てをデモやボイコット、ストライキという形で表してきた。現代のヨーロッパの若者は環境問題に対する若者主導の草の根運動を活発に展開し、その影響は世界規模で拡散している。
 ドイツとオーストリアではラスト・ジェネレーション(独:Letzte Generation)と呼ばれる環境活動団体が政府の気候変動対策への姿勢や石炭化石燃料使用等に抗議することを目的に、座り込みによる道路封鎖や美術館の美術品に液体をかけるといった手段で行動を起こしている。イギリス発祥のエクスティンクション・レベリオン(絶滅への反抗: Extinction Rebellion)という市民運動は政府や企業の環境対策への抗議活動として、路上占拠やデモ等を通して活動し、その影響は86か国に及ぶ。スウェーデンでは環境活動家グレタ・トゥーンベリが組織したフライデーズ・フォー・フューチャー(Fridays For Future)が、政治リーダーの気候変動への行動や石油業界への再生可能エネルギーへの転換を求めて学校ストライキ活動を活発化させている。この活動は瞬く間に世界中に拡散し、150か国以上で数十万人に渡る規模で展開されている(ちなみに、エクスティンクション・レベリオンとフライデーズ・フォー・フューチャーは日本にも支部を構える)。他にも例を挙げればきりがないが、このような市民不服従運動は広くヨーロッパの若者に支持され、彼らが敵視する相手は大企業や富裕層であり、政治家である。過激な活動手段には議論の余地もあるかもしれないが、ヨーロッパの若者の抱く自身の未来への危機感の現れであり、彼らの消費行動や企業に対する倫理意識に少なからず影響を及ぼしていることは間違いないだろう。

希望ではなく、堅実な履行のための規制を

 本年度のEU議会の報告によると、パンデミック以降SDGsの2030年のマイルストーンに向けた進展はマイナスへと転じ、より大規模な改革が必要とされる。アンケートの中でもSDGsが含む諸課題に具体的なアクションを起こすことへの切迫感が滲み出る。「持続可能な開発『目標』の達成はゴールではなく、あくまで持続可能な社会の実現に向けた取り組みの過程であり、2030年以降の未来にどのように非持続可能な活動を許容しない枠組みを構築できるかが重要」というコメントからもそれを感じることができる。回答の中でもSDGsの目標に行動が伴っていないというコメントは多く、より公的なレベルでの厳しい規制を望む声が多かった。加盟国や企業の一単位の努力ではそれぞれの持つ事情や思惑が足枷となり、抜本的な変化を促すアクションへと繋がらないと見なされ、結果その不満が上記のような過激な抗議活動となって現れる。政府やEU、国連といったレベルで各加盟国に順守を迫る法律規制を強化することで、パフォーマンスではない着実な変化を促すことができると考えているということだ。厳しい規制は回り回って当然市民にもさまざまな形で制限を強いることに繋がりかねないが、そのトレード・オフを被ってでも規制強化を求めるほどに彼らの危機意識は差し迫っているということか。
 とはいえ、ヨーロッパの若者にとっても闇雲に経済成長を無視することはできない。彼らも働かなくては生きていけない。彼らが懐疑的なのは経済成長ではなくその仕組みのあり方だ。平等や公平を掲げる先進国においてなぜ格差が拡大するのか。飢餓の撲滅を推進しながらなぜ余剰に生産された農作物を廃棄しなければならないのか。そういった問いに国や企業は行動を持って応えていかなければならないし、若者自身もまた自身の行動を持って問題に取り組んでいかなければならない。

井上 史郎 (いのうえ しろう)
オランダ国立南大学講師。Adjective Verb代表。

オランダ在住のデザイナー、デザイン研究者。東京造形大学卒業、武蔵野美術大学修士過程修了後に渡蘭。デザイン・アカデミー・アイントホーフェン修士過程修了後、ノーザンブリア大学(英国)にてデザイン研究博士号を取得。その後イギリス・デンマーク・オランダ・オーストリアでデザイナー、研究者、講師として活動。デザイナーの創造性や認知の視点からデザインプロセスを研究し、ヨーロッパの大学と共同研究、論文執筆、講義を行う。