第16回
健康の定義

さまざまな困難に遭遇したとき、人は原理原則に立ち戻ることで正解に近づくことができます。または、先人の言葉を参考にすることで事態を打開できることがあります。そこで私がこれまで先輩に教わり、あるいは体験したり、書籍から学んだことをお伝えさせていただきたいと思います。

健康の定義

 本書でも「健康」という言葉を幾度となく使っています。では健康の定義とは何でしょうか。

「それは人生の理想や目的を成就するために最も適した心身の状態である」

元ハーバード、ロックフェラー大学教授 ルネ・デュボス氏

 私の考えに最も近いのがこの言葉です。
 子どもは5歳くらいまで指しゃぶりをしていると、どんどん上の歯が伸び、舌が小さくなって、正しい発音ができなくなるといいます。声優になりたいという夢を持った、ある女子大生がいました。実は彼女は先の理由で正しい発音ができない状態だったのです。でも声優になる夢はあきらめたくない。それを東京医科歯科大学の先生が聞き入れ、手術やその後のリハビリを行うことで、きちんと発音できるように治療したそうです。その結果、その女子大生は晴れて声優になることができました。こういうことが非常に大事なのです。単にカラダが丈夫でも、夢や希望など内面的な部分が充実していないと健康とはいえないのではないでしょうか。仮に五体満足でなくとも、目的や理想を成就するために適した心身の状態にあれば、それは健康であるということです。
 もう一つ、健康についての興味深い定義をご紹介しましょう。

「健康とは何かと聞かれると、粋であること、輝き、色気、それと品格である、と答えることにしている」

横倉クリニック院長 横倉恒雄氏

 なんとも難しい、でも魅力的な言葉ですね。これを会社(企業人)に置き換えた私なりの解釈を述べさせていただきます。まず「粋」とは、あか抜けている、ひと味違う品質感がある、ひと味違う品質観を提供できている、品格がある、品が違うということだと思います。他の商品とはものが違う、小さな驚きや感動がある、あるいは感動を与える力がある。これが「粋」だと考えます。次に「輝き」とは、内なるエネルギーが充実し外に滲み出ている様子でしょうか。たとえば、社内でいつもと議論を交わしており、そんな活発なエネルギーが外部からも感じられる、常に活気や好奇心に満ち、秘めた情熱やオーラがある様子です。これは個人にとっても同じことがいえると思います。
 「色気」とは、人を惹き付ける魅力がある、可愛らしさや愛嬌がある、ということでしょう。ひとことであらわすと愛があるということです。「粋」が自分を磨くことであるのに対し、「色気」は相手が認めるもの。人の心に働きかけるものだと思います。愛情を持って、お客様のことを常に考える心のことではないでしょうか。最後に「品格」は、卑しくないこと、目線が高く奥行きが深いことです。目線が決まれば、自ずと形や動作が決まります。逆に目線が低いと、目先のことしか考えられなくなり、仕事が卑しくなるものです。中長期にわたり、どうあるべきかを常に考えながら仕事をする。これが品格だと思うのです。

 これらの要素を全て備えるのは並大抵のことではありません。でも、一つでも多く備えようと努力することが、個人、そして会社の健康への近道ではないかと私は考えます。究極の健康というのは、ありとあらゆるものに感謝できる心を持つ、そういうことではないでしょうか。

公益社団法人 日本マーケティング協会
会長 藤重貞慶